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【完全ガイド】健康経営の節税効果と認定取得|4つの法的根拠と中小企業の活用法

健康経営の節税効果と健康経営優良法人認定の取得設計とは。4つの法的根拠・30名規模で年160〜200万円の両建て効果額・否認の典型から判断材料を整理します。

公開 2026-05-04
健康経営健康経営優良法人福利厚生規程節税中小企業
目次33
  1. 結論:4つの法的根拠と30名規模で年160〜200万円の両建て効果
  2. 健康経営の節税効果は4つの法律に根拠がある
  3. 給与課税の対象外になる仕組み(所得税基本通達36-29・36-30)
  4. 社会保険料の対象外になる仕組み(健康保険法3条5項)
  5. 法人税の損金に算入できる仕組み(法人税法22条3項2号)
  6. 法定健診の事業主義務(労働安全衛生法66条)
  7. 4つの法的根拠の対応関係
  8. 効果額:30名規模で年160〜200万円の両建て効果
  9. モデルケース:従業員30名規模の試算
  10. なぜこれだけの規模になるのか
  11. 効果額の前提と振れ幅
  12. 健康経営優良法人認定の取得要件と付随メリット
  13. 認定制度の二部門構造(大規模法人部門・中小規模法人部門)
  14. 認定要件の主要項目
  15. 認定取得の付随メリット
  16. 通常通りの整備で効果が小さくなる構造的課題
  17. 課題1:「健診費用の損金算入のみ」に取り組みが留まりがち
  18. 課題2:「大企業向けのイメージ」で中小企業の活用が遅れている
  19. 課題3:効果が小さい割に運用負荷が大きく、続かなくなる
  20. なぜこの構造が放置されがちなのか
  21. 否認の典型パターンと防御設計
  22. 否認の4つの典型パターン
  23. 「全員一律」の意味と合理的な格差
  24. 否認する側にとっての論点 — 規程と運用記録
  25. 運用負荷の2種類(規程整備・継続的事務)
  26. 規程整備の負荷(導入時に1回)
  27. 継続的事務の負荷(健診手配・利用記録管理・認定更新)
  28. まとめ
  29. 自社の状況で具体的に検討したい方へ
  30. ① 削減事例集(無料・資料請求)
  31. ② オンライン説明会(事例集に載っていない事例も含めて)
  32. よくある質問(FAQ)
  33. 出典・参考

「健康経営って大企業の話でしょ?うちの規模で取り組む価値があるのか…」――中小企業の経営者・経理担当者の方から、最も多く聞かれる質問です。健診費用の損金算入は知っていても、運動奨励金やEAP・健康増進設備を組み合わせた両建て節税の設計、そして健康経営優良法人認定の付随メリットまでは整理されていない。しかし、本当にやる価値があるのか? そう感じている方が多いのではないでしょうか。

健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題として位置づけ、健康診断・人間ドック・メンタルヘルス対策・運動機会の提供などの施策を福利厚生規程として制度化する経営手法を指します。所得税基本通達36-29・36-30により、福利厚生として全員一律に提供される経済的利益は給与課税の対象から外れる扱いとなり、法人税法22条3項2号により会社側で福利厚生費として損金算入される構造です。

健康経営の節税効果は4つの法律に明確な根拠を持つ制度です。健診・人間ドック・運動奨励金・EAP・健康増進設備を福利厚生規程として整備すれば、損金算入と給与課税回避の両建てで効果額が積み上がります。さらに健康経営優良法人認定の取得で採用力・金融機関評価などの付随メリットも得られる領域です。価値判定は効果額・付随メリットと運用負荷を秤にかける領域です。


結論:4つの法的根拠と30名規模で年160〜200万円の両建て効果

健康経営の節税効果は4法(所得税基本通達36-29・36-30/健保法3条5項・厚年法3条1項3号/法人税法22条3項2号/労働安全衛生法66条)に分散する根拠を持ち、従業員30名規模の中小企業で年間160〜200万円規模の両建て効果が現実的に得られます。一方で「大企業向けの仕組み」というイメージから中小企業の活用が遅れており、健診費用の損金算入のみに留まって運動奨励金・EAP・健康増進設備・健康経営優良法人認定までを統合設計する事例が少ないという構造的な課題もあります。否認リスクは存在するものの、福利厚生規程・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を整えれば大半は防御可能と考えられます。

では、その「4つの法的根拠」とは具体的に何なのか。次の章から順に整理します。


健康経営の節税効果は4つの法律に根拠がある

結論から言うと、健康経営の節税効果は4つの法律にバラバラに分散して根拠を持つ、極めて筋の通った制度です。 違法な節税スキームではなく、所得税・社会保険・法人税・労働安全衛生の4方向に条文・通達上の裏付けを持ちます。

要点は4つです。

  1. 所得税は福利厚生として全員一律に提供される経済的利益を給与課税から外す(所得税基本通達36-29・36-30)
  2. 社会保険料は福利厚生規程に基づく現物給付を「報酬」の対象外として扱う(健保法3条5項・厚年法3条1項3号)
  3. 法人税は福利厚生費として全額損金算入する(法人税法22条3項2号)
  4. 法定健診部分は労働安全衛生法66条の事業主義務として業務上必要な経費に位置づけられる(労働安全衛生法66条)

通達番号にあまり馴染みがない方は、各小見出しの冒頭1〜2文だけ読み流していただいても要点は掴めます。

給与課税の対象外になる仕組み(所得税基本通達36-29・36-30)

所得税基本通達36-29は、使用者が役員または使用人のレクリエーションのために行う行事・施設利用の費用負担について、その費用が著しく多額でない場合・役員のみを対象としない場合は経済的利益として課税しない旨を整理しています。同36-30は、使用者が福利厚生のために用役(サービス)を無償または低額で提供した場合の課税関係について、全員一律提供等の要件を満たす範囲で経済的利益として課税しないことを示しています。

上記の通達を地の文で整理すると、健診・人間ドック・運動奨励金・健康増進施設の利用料補助などは、「全員一律提供」「業務上必要な範囲」「金額が社会通念上相当」の3要件を満たす限り、受給者にとっての経済的利益として給与課税の対象から外れる扱いとなります。但し、通達は法令ではなく行政の解釈指針であり、法的拘束力はないものの、税務署の運用方針として実務上は遵守が必要とされています。具体的な金額基準は通達上に明示されておらず、実務上は事業実態と社会通念上の相当性で判定する整理になります。

社会保険料の対象外になる仕組み(健康保険法3条5項)

健康保険法3条5項では、次のように規定されています。

この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。(後略)

上記の条文を要約すると、福利厚生規程に基づき全員一律に提供される健診・運動奨励金・EAP・健康増進設備等の現物給付は「労働の対償」に該当せず、報酬の定義から外れる整理となります。給与として支給するのではなく、福利厚生規程に基づく経済的利益・現物給付として整理することで、社会保険料の標準報酬月額の算定基礎にも含まれません。本人負担分だけでなく会社負担分の社保料も削減される点が、所得税の非課税効果と並ぶメリットです。なお、現金支給の運動奨励金は「手当」として報酬扱いされるリスクが残るため、現物給付化または利用料補助の形を取るのが実務上のセオリーです。

法人税の損金に算入できる仕組み(法人税法22条3項2号)

法人税法22条3項2号は損金算入対象を「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用」と定めています。福利厚生規程に基づき支給される健診費用・運動奨励金・EAP契約料・健康増進設備の減価償却費等は、業務遂行に必要な福利厚生費として損金算入の対象となるのが一般的です。福利厚生規程に基づく支給・取締役会等の機関決定・全員一律対象の運用実態の3点を満たすことが、損金として認められる前提とされています。

法定健診の事業主義務(労働安全衛生法66条)

労働安全衛生法66条は、事業者に対して労働者の健康診断実施を義務付けています。年1回の定期健診・特定業務従事者の健診・雇入時の健診などが法定義務として位置づけられており、事業主の負担分は業務上必要な経費として疑いの余地なく損金算入されます。健康経営の取り組みは、この法定健診の上乗せ部分(人間ドック・脳ドック等の任意項目)と、運動奨励金・EAP・健康増進設備等の追加施策で構成される構造です。

4つの法的根拠の対応関係

法律効果が及ぶ対象仕組み
所得税基本通達36-29・36-30受給者全員一律提供等の要件を満たす範囲で給与課税の対象外
健康保険法3条5項・厚年法3条1項3号受給者・会社標準報酬月額の対象外(社保本人分・会社分とも削減)
法人税法22条3項2号会社福利厚生費として損金算入し法人税の課税所得を圧縮
労働安全衛生法66条会社法定健診部分は事業主義務として業務上必要な経費

健康経営は通達と条文に裏付けられた制度として整理できます。では自社で導入したら実際にどれくらいの効果額が見込めるのか。ここからは効果額の規模感に踏み込みます。


効果額:30名規模で年160〜200万円の両建て効果

健康経営による節税は、従業員30名規模の中小企業で年間160〜200万円規模の両建て効果が現実的に得られます。 まずは具体的な数値で規模感を掴んでください。

モデルケース:従業員30名規模の試算

以下の条件で試算した場合、年間総効果額は約160〜200万円規模となります。

項目
従業員数30名(うち人間ドック対象は40歳以上の20名)
健診・人間ドック上乗せ1人年5万円×30名=150万円(任意分。法定健診は別途・ここに含めない)
運動奨励金(フィットネス利用料補助等)1人年6万円×20名=120万円
EAP契約(メンタルヘルス相談窓口の法人契約)法人契約年60万円
健康増進設備(休憩室・運動スペース等の減価償却費)年30万円
福利厚生施策の総支出合計360万円/年
都道府県東京都(協会けんぽ料率)

試算前提:協会けんぽ東京都2026年度料率を適用し、限界税率20%帯(受給者の課税所得帯:所得税20%・住民税10%)を仮定。比較対象は「同額360万円を賞与として給与で配分した場合」を仮定し、福利厚生規程として整備したことによる節税の差分を効果額として算出しています。社会保険料は標準報酬月額の上限到達前の帯域を仮定。あくまでモデル試算であり、実際の効果額は受給者の課税所得帯・健診/運動奨励金/EAPの設計内容・社保上限到達状況・都道府県(健保料率)等の個別条件で大きく変動します。

上記の福利厚生施策(合計360万円規模)を福利厚生規程として整備した場合、「同額を賞与として配分した場合」と比較した年間の効果内訳は次のようになります。

効果項目金額/年
受給者側の所得税・住民税回避(給与課税回避分・限界税率合計30%・受給者個人換算分270万円ベース)¥810,000
社会保険料(本人分・労使合計約15%・受給者個人換算分270万円ベース)¥405,000
社会保険料(会社分・約15%・受給者個人換算分270万円ベース)¥405,000
個人側合計(手取り増)¥1,215,000
会社側合計(社保会社分のコスト減)¥405,000
節税の総効果額(賞与配分との差分)約160〜200万円

前提:受給者個人換算分(健診上乗せ150万円+運動奨励金120万円=270万円)は受給者個人の経済的利益に該当する範囲。EAP60万円・健康増進設備30万円は会社全体での福利厚生費(従業員個人換算困難な部分)として除外。法人税の損金算入効果は賞与支給と福利厚生費支給で同等のため、ここでの差分には含めていません。受給者の限界税率帯・社保上限到達状況により効果額は約160万〜200万円のレンジで変動します。

従業員30名規模でこの規模です。 50名規模なら年300万円超、100名規模なら年500万円超のレンジに入ります。従業員数に比例して効果額は積み上がる傾向があります。

なぜこれだけの規模になるのか

効果額は2方向から同時に積み上がります。受給者側で所得税・住民税・社保本人分が削減され、会社側で社保会社分が削減される構造です。「受給者のおカネ」と「会社のおカネ」の両側から同時に効果が出る両建てが、健康経営が「メリットの大きな制度」と呼ばれる理由です。

加えて、福利厚生費として支出する360万円の総額自体は、賞与として支出する場合と同様に法人税の損金算入対象となります。重要なのは、福利厚生規程として整備することで、受給者の給与課税と社会保険料の対象から外れる扱いとなり、その差分が節税効果として積み上がる点です。

効果額の前提と振れ幅

上記モデルケースは「従業員30名・健診上乗せ150万円・運動奨励金120万円・EAP60万円・健康増進設備30万円・限界税率合計30%帯」の条件での試算です。従業員数・健診/人間ドックの内容・運動奨励金やEAPの導入有無・受給者の限界税率帯・社保上限到達状況によって金額は変わります。従業員数が多くなれば効果額は上振れし、限界税率帯の高い役員・幹部が多ければ効果額は上振れします。

規模感が掴めたところで、次に多くの経営者の方が突き当たるのが「では、健康経営優良法人認定を取得すべきか」という認定取得の問いです。ここから先は、節税効果の枠を超えた付随メリットの領域に入ります。


健康経営優良法人認定の取得要件と付随メリット

健康経営優良法人認定は、節税効果に加えて採用力・金融機関評価・取引先信用などの付随メリットを生む経済産業省の制度です。 ここからは少し制度の話に入りますが、健康経営の取り組みを「節税」だけで終わらせず、対外的な評価向上に転用したい読者の方にとっては最も重要な章です。

認定制度の二部門構造(大規模法人部門・中小規模法人部門)

経済産業省の健康経営優良法人認定制度では、大規模法人部門と中小規模法人部門の二部門が設けられています。大規模法人部門の上位500法人は「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500法人は「ブライト500」として個別に表彰される構造です。

中小規模法人部門の対象は従業員数の上限を業種別に定めており、製造業・建設業等は300人以下、卸売業は100人以下、小売業・サービス業は50人〜100人以下といった区分が一般的に示されています(最新の区分は経済産業省の公表情報を要確認)。中小企業の多くがこの中小規模法人部門の対象範囲に該当します。

認定要件の主要項目

健康経営優良法人認定の主要要件は次の領域に分類されます。

  1. 経営理念・方針: 健康宣言の社内外への発信、経営者自身の取り組みの明示
  2. 組織体制: 健康づくり責任者の設置、産業医・保健師との連携体制
  3. 制度・施策実行: 従業員健診受診率(労働安全衛生法66条の法定健診)、ストレスチェック実施、メンタルヘルス対策、受動喫煙対策、運動機会の提供、食生活改善、女性の健康課題への対応
  4. 評価・改善: 健診結果の管理、施策の効果測定、PDCAサイクルの運用

中小規模法人部門の認定要件は、大規模法人部門と比較して必須項目が絞り込まれており、実現可能なレベルに設計されています。法定健診の受診率向上・ストレスチェック実施・受動喫煙対策など、労働安全衛生法上の義務遂行と重なる項目も多く、新たな負荷を最小限に抑えながら認定取得に近づける設計が可能です。

認定取得の付随メリット

健康経営優良法人認定の付随メリットは次の領域で報告されています。

  • 採用力の向上: 求職者の企業選択において健康経営優良法人認定が一定の評価軸として機能する傾向
  • 金融機関評価: 一部の地方銀行・信用金庫等が健康経営優良法人向けの優遇金利・融資商品を提供している事例
  • 取引先信用: 公共調達・大企業のサプライヤー選定において加点要素として位置づけられる事例
  • 保険料優遇: 一部の生命保険・損害保険会社が健康経営優良法人向けの団体保険料優遇を提供している事例
  • 健康保険組合の保険料率改定への影響: 健康保険組合加入企業では加入組合の財政状況改善を通じて保険料率の安定化に寄与する可能性

これらの付随メリットは節税効果に直接の金額換算はできないものの、長期的な企業価値向上の経営資源として機能する性質のものです。「節税のために健康経営に取り組む」のではなく、「健康経営の取り組みの結果として節税効果と認定メリットが両方得られる」と整理するのが、本制度の活用上の正しい順序となります。


通常通りの整備で効果が小さくなる構造的課題

ここで、ガイドや書籍に書かれている「定石」のままに健康経営に取り組むと、節税効果が思ったほど大きくならず、認定取得まで踏み込めない――という実態の話を1章だけ挟みます。「やる価値があるか」を判断するうえで避けて通れない論点だからです。

課題1:「健診費用の損金算入のみ」に取り組みが留まりがち

実務上、中小企業の健康経営整備では「法定健診と人間ドックの会社負担」のみで終わるケースが多く見られます。法定健診は労働安全衛生法66条の事業主義務として元々損金扱いであり、上乗せの人間ドックも所得税基本通達36-29・36-30の範囲で福利厚生費として整備可能です。しかし、ここで取り組みが止まると、運動奨励金・EAP・健康増進設備など他の施策で得られるはずの効果額を取り逃す結果になります。

先述の効果額の章で見たとおり、健康経営の効果額は健診上乗せだけでなく運動奨励金・EAP・健康増進設備を組み合わせて積み上がる構造です。健診費用のみの設計では、効果額が3〜5分の1程度に縮む構造になります。

課題2:「大企業向けのイメージ」で中小企業の活用が遅れている

健康経営優良法人認定は大規模法人部門のホワイト500等の知名度が高く、中小企業からは「大企業向けの仕組み」と思い込まれているケースが多く見られます。実際には経済産業省の制度設計上、中小規模法人部門が独立して用意されており、認定要件も実現可能なレベルに設計されています。

「中小企業向けではない」という心理的ハードルが、認定取得の付随メリット(採用力・金融機関評価・取引先信用)を享受する機会を逃す結果につながっている――これが業界の構造的な課題です。

課題3:効果が小さい割に運用負荷が大きく、続かなくなる

課題1と課題2で施策の取り組みが部分的に留まると、福利厚生規程の整備・健診結果の管理・施策の効果測定といった運用負荷とのバランスが悪くなります。「数十万円のために毎月の事務負荷を背負うか」という秤にかけたとき、運用が形骸化したり、数年で取り組みが止まったりする例も少なくありません。

なぜこの構造が放置されがちなのか

ここで「では、なぜ顧問税理士に相談すれば最適な設計が出てくるのではないか?」と思われるかもしれません。しかし業界の構造として、顧問税理士に健康経営の踏み込んだ統合設計を期待しにくい事情があります。

第一に、顧問税理士の収入構造は月次顧問料・決算料が中心で、節税提案の成果に応じた報酬体系にはなっていないことが一般的です。提案にかける時間が顧問料の中で消化されるため、踏み込んだ統合設計にインセンティブが働きにくい構造になっています。第二に、健康経営は所得税基本通達36-29・36-30の判定要件が「全員一律」「社会通念上相当」など抽象的で、税務調査で否認された場合のリスク(顧客との信頼関係毀損・損害賠償リスク)を顧問税理士側が背負うことになります。リスクを取って攻めた提案をするより、安全側の保守的な範囲(健診費用の損金算入のみ)に留める動機のほうが強くなりがちです。第三に、健康経営優良法人認定の取得支援は税務領域を越えるため、税理士業務の通常スコープ外として扱われやすい論点です。

これは顧問税理士個人の能力や姿勢の問題ではなく、ビジネスモデルと責任構造から生じる業界の構造的な傾向として理解する必要があります。健康経営の設計を「顧問税理士に丸投げ」しても、効果額の規模感と認定取得の付随メリットが発揮されにくい――これが本章の要点です。


否認の典型パターンと防御設計

健康経営の福利厚生費の否認リスクは、規程・全員一律性・金額相当性の3点に集中する領域です。 ただし、否認が起きるケースには共通したパターンがあり、これらに該当しない設計であれば防御可能性は高まると考えられます。否認の4典型を避けて、福利厚生規程・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を整えれば、過度に怯えて導入を見送るのはやや惜しい選択になりうる、という構造です。

否認の4つの典型パターン

税務調査で健康経営の福利厚生費が「給与」として否認される典型パターンは、実務上以下の4類型に集約されます。

  • 役員偏重: 役員のみが対象、または役員と従業員の格差が業務実態から乖離(高額な人間ドック・健康増進設備が役員のみ利用可能等)
  • 規程不備: 福利厚生規程が存在しない、または内容が形骸化している(規程に明文化されていない施策の運用)
  • 過度な金額: 社会通念上相当を逸脱する水準の支給(高額会員制クラブの全額補助等)
  • 業務関連性の欠如: 業務との関連性が薄い施策(私的な娯楽の色彩が強い旅行・行事等)

逆に言えば、福利厚生規程の整備・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点によって、これらの典型に該当しない設計は構築可能と考えられます。

「全員一律」の意味と合理的な格差

全員一律対象の要件は、役員と従業員で全く同じ施策・同じ金額を提供することを求めるものではなく、職種・勤続年数・役職に応じた合理的な格差を許容する趣旨とされています。例えば人間ドックを40歳以上の従業員に上乗せする設計、運動奨励金を全社員に一律支給する設計、EAP契約を全社員が利用可能とする設計は、一般的に全員一律対象の要件を満たす整理と考えられます。一方、役員のみ高額な人間ドックを受診できる設計や、特定部署のみが利用可能な健康増進設備は、全員一律性を欠くとして否認の典型に近づきます。

否認する側にとっての論点 — 規程と運用記録

健康経営の福利厚生費の判定は、出張日当のように「金額の相当性」が抽象的に問われる側面と、役員社宅のように「対象者の範囲」が客観的事実として問われる側面の両方を持ちます。福利厚生規程(誰が・何を・どこまで・どの金額で利用できるかの明文化)と運用記録(実際に全員一律で利用機会が提供されている事実の証拠)の2点が揃っていれば、税務当局側が否認するハードルは相対的に高くなります。

判定のグレーが残るのは、金額の社会通念上相当性の部分です。健診上乗せ・運動奨励金・EAP・健康増進設備のいずれも、業界実態と社会通念に照らして相当な範囲(実務書に示される一般的な水準)に収まっていれば、客観的な防御層は構築できます。

但し、これは「絶対に否認されない」という保証ではありません。福利厚生規程・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を揃えれば、客観的に説明可能な領域として整理されています。典型パターンを避ける設計と文書化を伴えば、過度な怯えで導入を見送る合理性は薄いと考えられます。


運用負荷の2種類(規程整備・継続的事務)

健康経営の運用には、導入時に1回発生する固定負荷と、毎年継続的に発生する事務負荷の2種類があります。 否認リスクと並ぶコスト要素として、効果額と同じ秤に乗せて評価することが価値判定の前提となります。

規程整備の負荷(導入時に1回)

導入時の負荷は4種類です。福利厚生規程の作成(健診上乗せ・運動奨励金・EAP・健康増進設備の対象者・金額・支給方法の明文化)、機関決定の取得(会社法348条・362条に基づく取締役会または株主総会の決議・議事録作成)、健康経営優良法人認定取得の準備(健康宣言の社内外発信・健康づくり責任者の設置)、就業規則・賃金規程の改定(福利厚生規程との整合性確保)。1回限りの固定負荷ではあるものの、規程の整備品質はその後の運用と否認リスクに直結するため、ここで手を抜くと防御層の効きが大きく下がる点が要注意となります。

特に健康経営優良法人認定の取得を視野に入れる場合、申請書類の準備(健康経営度調査票の記入・各種施策の実績記録)に2〜3か月程度の期間を要するのが一般的です。設計段階で認定取得まで含めた段取りを組んでおくと、後工程の負荷を大きく下げられます。

継続的事務の負荷(健診手配・利用記録管理・認定更新)

導入後は毎年の健診手配(受診率の管理・受診案内)、運動奨励金/EAP/健康増進設備の利用記録管理(誰が何回利用したかの記録保管)、健診結果の管理(個人情報保護に配慮した保管)が継続発生します。これに加え、税務調査時の対応(規程・議事録・利用記録の説明と提示)と、規程の見直し(健診項目の改定・健康経営施策の追加)、健康経営優良法人認定の更新申請(年次の認定更新手続)が随時発生します。

健康経営優良法人認定の年次更新では、健康経営度調査票の記入と各種施策の実績記録の更新が必要です。この更新手続きは、産業医・保健師との連携、人事労務担当者の年間スケジュール管理が前提となります。

事務処理を社内のリソースで回すか、外部の専門サービス(健康経営支援サービス・人事労務代行等)を利用するかで負荷の所在は変わります。いずれの場合も、節税効果と認定取得メリットを享受するためのコストとして継続的に発生する性質のものです。「効果が小さい割に運用負荷が大きい」という構造に陥らないためには、設計段階で福利厚生施策・認定取得・運用手順をセットで最適化する必要があります。


まとめ

健康経営は4つの法的根拠を持つ制度であり、健診・運動奨励金・EAP・健康増進設備を福利厚生規程として統合設計すれば、30名規模で年160〜200万円の両建て効果と健康経営優良法人認定の付随メリットが現実的に得られます(効果額は従業員数・施策内容・限界税率帯・社保上限到達状況等の個別条件で大きく変動)。一方で「健診費用の損金算入のみ」に留まる通常通りの整備では効果が3〜5分の1に縮み、業界実態に即した統合設計には踏み込んだ知見が必要です。

健康経営による節税は、所得税・社会保険・法人税・労働安全衛生の4つの法律に根拠を持つ制度です。効果額は従業員数・健診/人間ドックの内容・運動奨励金やEAPの導入有無・受給者の限界税率帯・社保上限到達状況によって変動し、健康経営優良法人認定の取得で採用力・金融機関評価・取引先信用などの付随メリットも積み上がります。否認リスクと継続的な運用負荷というコスト要素も並走しますが、福利厚生規程・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を整えた設計であれば防御可能性は高まります。自社で取り組むかどうかは、従業員数と施策内容から得られる効果額・付随メリットの見立てと、社内の事務処理体制・専門知識へのアクセスを照らし合わせて判断するのが現実的です。


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よくある質問(FAQ)

Q1. 健康経営に取り組むと、結局いくら節税になりますか?

A. 効果額は従業員数・健診/人間ドックの内容・運動奨励金やEAPの導入有無・受給者の限界税率帯・社保上限到達状況の5要因で大きく変動します。30名規模で健診上乗せ・運動奨励金・EAP・健康増進設備を組み合わせるモデルケースでは年160〜200万円規模の効果が現実的とされ、自社条件での見立ては要因ごとの寄与度を整理したシミュレーションで行うのが現実的です。

Q2. 健診や人間ドックの会社負担は、なぜ給与課税されないのですか?

A. 所得税基本通達36-29では、使用者が役員・使用人の福利厚生のために行う措置で、その経済的利益が著しく多額でなく、かつ役員のみを対象とするものでない場合は給与課税しない旨が示されています。健診・人間ドックは「全員一律提供」「業務上必要な範囲」「金額が社会通念上相当」の3点を満たす設計であれば、福利厚生費として損金算入されつつ受給者の給与課税の対象から外れる扱いとなります。

Q3. 健康経営優良法人認定は中小企業でも取れますか?

A. 経済産業省の健康経営優良法人認定制度には大規模法人部門(ホワイト500等)と中小規模法人部門(ブライト500等)が設けられており、中小規模法人部門は従業員数の規模を問わず申請可能です。認定要件は健診受診率・ストレスチェック実施・受動喫煙対策・運動機会提供・メンタルヘルス対策など実現可能なレベルですが、「大企業向けの仕組み」と思い込まれて申請に踏み出せていない中小企業が多いという業界実態があります。

Q4. 健康経営の取り組みが「給与」として税務調査で否認されるのは、どんなケースですか?

A. 役員偏重(全員一律性の欠如)・福利厚生規程の不備・社会通念上相当を逸脱する金額設定・業務関連性の欠如の4類型に集中する傾向があります。福利厚生規程の整備・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を整えれば防御可能性は高まると考えられます。

Q5. 運動奨励金や健康増進施設の利用料補助を導入する場合、いくらまでなら大丈夫ですか?

A. 所得税基本通達36-29・36-30に具体的な金額基準は設けられておらず、判定軸は「全員一律」「業務上の福利厚生として相当」「社会通念上の妥当性」の3点となります。実務書では月額数千円〜1万円程度の運動奨励金や、フィットネスクラブ法人契約料の補助が一般的とされています。金額が社会通念を逸脱する水準(高額会員制クラブ等)は給与課税の対象に戻るリスクが指摘されており、レンジ内での設計が現実的です。

Q6. 顧問税理士に相談すれば、健康経営の節税効果を最大化してもらえますか?

A. 顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)と責任構造(否認時のリスク負担)から、健康経営の福利厚生設計のような曖昧領域では「健診費用の損金算入」のみに留まる保守的な提案になりがちです。運動奨励金・EAP・健康増進設備・健康経営優良法人認定取得まで踏み込んだ統合設計には、社内主導での合理性整理か、健康経営の制度設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。


出典・参考

  1. 所得税基本通達 36-29(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリエーションの費用)/国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/05.htm (2026-05-03 確認)
  2. 所得税基本通達 36-30(課税しない経済的利益…用役の提供等)/国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/05.htm (2026-05-03 確認)
  3. 国税庁タックスアンサー No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2603.htm (2026-05-03 確認)
  4. 健康保険法 第3条5項(報酬の定義)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000070 (2026-05-03 確認)
  5. 厚生年金保険法 第3条1項3号(報酬の定義)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115 (2026-05-03 確認)
  6. 法人税法 第22条3項2号(損金の額に算入すべき金額)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034 (2026-05-03 確認)
  7. 労働安全衛生法 第66条(健康診断)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057 (2026-05-03 確認)
  8. 経済産業省『健康経営優良法人認定制度』 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei_yuryouhouzin.html (2026-05-03 確認)
  9. 経済産業省『健康経営の推進について』 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html (2026-05-03 確認)
  10. 会社法 第348条・第362条(業務執行の決定)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086 (2026-05-03 確認)

よくある質問

Q. 健康経営に取り組むと、結局いくら節税になりますか?
効果額は従業員数・健診/人間ドックの内容・運動奨励金やEAPの導入有無・受給者の限界税率帯・社保上限到達状況の5要因で大きく変動します。30名規模で健診上乗せ・運動奨励金・EAP・健康増進設備を組み合わせるモデルケースでは年160〜200万円規模の効果が現実的とされ、自社条件での見立ては要因ごとの寄与度を整理したシミュレーションで行うのが現実的です。
Q. 健診や人間ドックの会社負担は、なぜ給与課税されないのですか?
所得税基本通達36-29では、使用者が役員・使用人の福利厚生のために行う措置で、その経済的利益が著しく多額でなく、かつ役員のみを対象とするものでない場合は給与課税しない旨が示されています。健診・人間ドックは「全員一律提供」「業務上必要な範囲」「金額が社会通念上相当」の3点を満たす設計であれば、福利厚生費として損金算入されつつ受給者の給与課税の対象から外れる扱いとなります。
Q. 健康経営優良法人認定は中小企業でも取れますか?
経済産業省の健康経営優良法人認定制度には大規模法人部門(ホワイト500等)と中小規模法人部門(ブライト500等)が設けられており、中小規模法人部門は従業員数の規模を問わず申請可能です。認定要件は健診受診率・ストレスチェック実施・受動喫煙対策・運動機会提供・メンタルヘルス対策など実現可能なレベルですが、「大企業向けの仕組み」と思い込まれて申請に踏み出せていない中小企業が多いという業界実態があります。
Q. 健康経営の取り組みが「給与」として税務調査で否認されるのは、どんなケースですか?
役員偏重(全員一律性の欠如)・福利厚生規程の不備・社会通念上相当を逸脱する金額設定・業務関連性の欠如の4類型に集中する傾向があります。福利厚生規程の整備・機関決定の記録・全員一律対象の運用記録の3点を整えれば防御可能性は高まると考えられます。
Q. 運動奨励金や健康増進施設の利用料補助を導入する場合、いくらまでなら大丈夫ですか?
所得税基本通達36-29・36-30に具体的な金額基準は設けられておらず、判定軸は「全員一律」「業務上の福利厚生として相当」「社会通念上の妥当性」の3点となります。実務書では月額数千円〜1万円程度の運動奨励金や、フィットネスクラブ法人契約料の補助が一般的とされています。金額が社会通念を逸脱する水準(高額会員制クラブ等)は給与課税の対象に戻るリスクが指摘されており、レンジ内での設計が現実的です。
Q. 顧問税理士に相談すれば、健康経営の節税効果を最大化してもらえますか?
顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)と責任構造(否認時のリスク負担)から、健康経営の福利厚生設計のような曖昧領域では「健診費用の損金算入」のみに留まる保守的な提案になりがちです。運動奨励金・EAP・健康増進設備・健康経営優良法人認定取得まで踏み込んだ統合設計には、社内主導での合理性整理か、健康経営の制度設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。

出典・参考

  1. 所得税基本通達 36-29(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリエーションの費用)2026-05-03 確認)
  2. 所得税基本通達 36-30(課税しない経済的利益…用役の提供等)2026-05-03 確認)
  3. 国税庁タックスアンサー No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行2026-05-03 確認)
  4. 健康保険法 第3条5項(報酬の定義)2026-05-03 確認)
  5. 厚生年金保険法 第3条1項3号(報酬の定義)2026-05-03 確認)
  6. 法人税法 第22条3項2号(損金の額に算入すべき金額)2026-05-03 確認)
  7. 労働安全衛生法 第66条(健康診断)2026-05-03 確認)
  8. 経済産業省『健康経営優良法人認定制度』2026-05-03 確認)
  9. 経済産業省『健康経営の推進について』2026-05-03 確認)
  10. 会社法 第348条・第362条(業務執行の決定)2026-05-03 確認)