【完全ガイド】在職老齢年金と繰下げ受給の最適化|4つの法的根拠
65歳以降も役員報酬を受け取る経営者向けに、在職老齢年金の支給停止と繰下げ受給増額の組み合わせ最適化を、4つの法的根拠と効果額レンジから整理します。
目次38 章
- 結論:4つの法的根拠と老後手取り最適化のレンジ
- 在職老齢年金・繰下げ受給は4つの法律に根拠がある
- 在職老齢年金の支給停止の仕組み(厚生年金保険法46条)
- 老齢厚生年金の繰下げ受給の仕組み(厚生年金保険法44条の3)
- 老齢基礎年金の繰下げ受給の仕組み(国民年金法28条)
- 公的年金等の課税の仕組み(所得税法35条・28条)
- 4つの法的根拠の対応関係
- 効果額:年60〜120万円規模で老後手取りが変動するレンジ
- モデルケース:65歳・役員報酬月額70万円・年金月額20万円の経営者
- 選択肢ごとの年金受取額の比較
- なぜこの規模になるのか
- 効果額の前提と振れ幅
- 在職老齢年金の支給停止計算(月50万円基準と総報酬月額相当額)
- 支給停止額の計算式
- 役員報酬水準別の支給停止額の試算
- 役員報酬の水準調整による在職老齢年金の最適化
- 在職定時改定の影響(2022年4月施行)
- 繰下げ受給の損益分岐年齢(健康寿命との関係)
- 繰下げ年数別の損益分岐年齢
- 老齢厚生年金と老齢基礎年金で別々に繰下げを選択する設計
- 繰下げ受給の落とし穴:在職老齢年金で停止された分は増額対象外
- 加給年金との関係
- よくある誤解と落とし穴
- 誤解1:「在職老齢年金で止まった年金は、退職後にまとめて支給される」ではない
- 誤解2:「繰下げ受給を申請すれば、繰下げ期間中の年金が後でもらえる」ではない
- 落とし穴1:在職老齢年金の支給停止調整額は毎年度見直される
- 落とし穴2:繰下げ期間中に死亡した場合の遺族の取り扱い
- 落とし穴3:給与所得+公的年金等雑所得が10万円超の場合の所得金額調整控除
- 運用負荷(年金事務所届出・年次対応)
- 受給開始時の届出(年金請求書・繰下げ申出書)
- 継続的な年次対応の負荷(在職定時改定の確認・健康状態の見直し)
- 手続負荷を抑えるための運用整理
- まとめ
- 自社の状況で具体的に検討したい方へ
- ① 削減事例集(無料・資料請求)
- ② オンライン説明会(事例集に載っていない事例も含めて)
- よくある質問(FAQ)
- 出典・参考
「65歳になっても会社の代表として役員報酬を受け取り続けるつもりだけれど、年金はどう受け取るのが一番得なのか整理できていない…」――中小企業の経営者・役員の方からよく聞かれる質問のひとつです。在職老齢年金で年金が止まる、繰下げ受給で増えると聞いたことはあるけれど、自分のケースで何をどう判断すればよいのかが見えない。しかし、本当にやる価値があるのか? そう感じている方が多いのではないでしょうか。
在職老齢年金は厚生年金保険法46条に基づき、報酬と年金の合計額に応じて年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。繰下げ受給は同法44条の3および国民年金法28条に基づき、65歳から75歳までの繰下げ期間に応じて年金額が最大84%まで増額される制度です。65歳以降も役員として報酬を受け取る経営者は、この2制度の組み合わせ次第で老後の手取り総額が大きく変動します。
在職老齢年金と繰下げ受給は4つの法律に明確な根拠を持つ年金制度です。一方で「65歳になったら自動的に年金を受け取り始める」という通常運用では、報酬水準による年金支給停止が発生し、繰下げによる増額機会も逃したまま老後手取りが目減りしやすい構造があります。価値判定は効果額と健康寿命の見立てを秤にかける領域です。
結論:4つの法的根拠と老後手取り最適化のレンジ
在職老齢年金と繰下げ受給の組み合わせ最適化は4法(厚生年金保険法46条/厚生年金保険法44条の3・国民年金法28条/所得税法35条・28条)に分散する根拠を持ち、65歳以降も会社から役員報酬を受け取る経営者の局面では、報酬水準と年金受給開始年齢の組み合わせで老後の手取り総額が年間60〜120万円規模で変動するケースが現実的です。一方で「65歳到達と同時に何もせず受給開始」という通常運用では、報酬が高水準のまま在職老齢年金で年金が大きく停止され、繰下げによる増額機会も逃したまま年金を受け取り始める構造的な課題もあります。最適解は受給者の役員報酬水準・健康寿命の見立て・他の所得の状況によって個別変動するため、選択の枠組みを理解したうえで自身の条件に当てはめる作業が必要です。
では、その「4つの法的根拠」とは具体的に何なのか。次の章から順に整理します。
在職老齢年金・繰下げ受給は4つの法律に根拠がある
結論から言うと、在職老齢年金と繰下げ受給の制度は4つの法律にバラバラに分散して根拠を持つ、極めて筋の通った設計です。 違法な節税スキームではなく、厚生年金保険・国民年金・所得税の3方向に条文上の裏付けを持ちます。
要点は4つです。
- 在職老齢年金は厚生年金保険法46条により、報酬と年金の合計が支給停止調整額(月50万円水準)を超える場合に超過額の半額相当が支給停止される
- 繰下げ受給は厚生年金保険法44条の3により、65歳から75歳まで1ヶ月ごとに0.7%ずつ年金額が増額される
- 老齢基礎年金の繰下げ受給は国民年金法28条により、同じく65歳から75歳まで1ヶ月0.7%の増額構造で運用される
- 公的年金等は所得税法35条4項により、年齢区分と収入金額に応じた公的年金等控除を差し引いた残額が雑所得として課税される
条文番号にあまり馴染みがない方は、各小見出しの冒頭1〜2文だけ読み流していただいても要点は掴めます。
在職老齢年金の支給停止の仕組み(厚生年金保険法46条)
厚生年金保険法46条は、老齢厚生年金の受給権者が厚生年金被保険者として就労する場合の年金支給停止について次のように規定しています。
老齢厚生年金の受給権者が被保険者である日(中略)が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の総額を十二で除して得た額(中略)との合計額に応じて、その月分の老齢厚生年金の全部又は一部の支給を停止する。
上記の条文を要約すると、年金受給権者が厚生年金被保険者として就労を継続する場合、給与・賞与の水準と年金額の合計が一定額(支給停止調整額)を超える部分について、年金の一部または全部が支給停止される構造です。経営者の方が65歳以降も会社の代表として役員報酬を受け取り続ける場合、この支給停止の対象となります。
支給停止調整額は2026年度時点で月50万円水準とされ、毎年度の物価・賃金変動を踏まえて見直される構造です。基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+直近1年の標準賞与額の12分の1)の合計が支給停止調整額を超えた場合、超過額の2分の1相当が年金から支給停止されます。
老齢厚生年金の繰下げ受給の仕組み(厚生年金保険法44条の3)
厚生年金保険法44条の3は、老齢厚生年金の支給繰下げについて次のように規定しています。
老齢厚生年金の受給権を有する者であってその受給権を取得した日から起算して一年を経過した日(中略)前に当該老齢厚生年金を請求していなかったものは(中略)実施機関に当該老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができる。
上記の条文を要約すると、65歳で老齢厚生年金の受給権を取得した後、1年経過日以降であれば受給開始時期を本人の選択で繰り下げられる構造です。繰下げによる増額率は1ヶ月あたり0.7%で、最大75歳まで(120ヶ月)繰下げると84%増となります。
増額された年金は繰下げ受給開始後の終身にわたって支給される一方、繰下げ期間中は年金を受け取らないため、繰下げ期間と本来期間中の受給額が損益分岐の対象となる構造です。
老齢基礎年金の繰下げ受給の仕組み(国民年金法28条)
国民年金法28条は、老齢基礎年金の支給繰下げについて次のように規定しています。
老齢基礎年金の受給権を有する者であってその受給権を取得した日から起算して一年を経過した日(中略)前に当該老齢基礎年金を請求していなかったものは(中略)厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる。
上記の条文を要約すると、老齢基礎年金についても老齢厚生年金と同じ構造で繰下げ受給が可能で、増額率は1ヶ月あたり0.7%、最大75歳まで繰下げると84%増となる仕組みです。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げを選択できるため、片方のみ繰下げる設計も可能です。
公的年金等の課税の仕組み(所得税法35条・28条)
公的年金等の課税は所得税法35条で雑所得として整理され、4項では公的年金等控除の計算方法が次のように規定されています。
その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額とする。
上記の条文を要約すると、年金収入は給与とは別の所得区分(雑所得)として扱われ、年齢区分と収入金額に応じた公的年金等控除額を差し引いた残額が課税対象となります。65歳以上の場合、公的年金等の収入が330万円以下であれば控除額110万円、330万円超410万円以下であれば収入金額×25%+27万5千円などの段階的な控除が適用される構造です。
役員報酬と年金を併給する経営者は、所得税法28条の給与所得控除と所得税法35条の公的年金等控除の両方を享受できる点が手取り最適化のポイントです。但し、給与所得+公的年金等雑所得の合計が10万円を超える場合は所得金額調整控除(最大10万円)の対象となるため、給与と年金を満額享受できる構造ではない点に留意が必要です。
4つの法的根拠の対応関係
| 法律 | 効果が及ぶ対象 | 仕組み |
|---|---|---|
| 厚生年金保険法46条 | 受給者 | 報酬と年金の合計が月50万円水準超で年金の一部または全部が支給停止 |
| 厚生年金保険法44条の3 | 受給者 | 65歳から最大75歳まで1ヶ月0.7%の増額(最大84%) |
| 国民年金法28条 | 受給者 | 老齢基礎年金も同じ構造で65歳から最大75歳まで繰下げ可能 |
| 所得税法35条・28条 | 受給者 | 年金は雑所得として公的年金等控除を適用、給与は給与所得控除を適用 |
在職老齢年金と繰下げ受給は、厚生年金保険・国民年金・所得税の3方向にわたって裏付けを持つ制度として整理できます。では実際に組み合わせて運用するとどれくらいの効果額が見込めるのか。ここからは効果額の規模感に踏み込みます。
効果額:年60〜120万円規模で老後手取りが変動するレンジ
在職老齢年金と繰下げ受給の組み合わせ次第で、65歳以降の経営者・役員1名あたり年間60〜120万円規模で老後の手取り総額が変動するケースが現実的にあります。 まずは具体的な数値で規模感を掴んでください。
モデルケース:65歳・役員報酬月額70万円・年金月額20万円の経営者
以下の条件で試算した場合、選択肢ごとの年間手取り差は60〜120万円規模のレンジに入ります。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 受給者年齢 | 65歳(受給権取得時点) |
| 役員報酬月額(標準報酬月額相当) | 70万円 |
| 賞与(年間) | なし(賞与なしモデル) |
| 老齢厚生年金月額(本来額) | 16万円 |
| 老齢基礎年金月額(本来額) | 4万円(合計年金月額20万円) |
| 健康状態 | 平均的な健康寿命(男性約72〜73歳・女性約75〜76歳の範囲) |
試算前提:支給停止調整額は2026年度時点の月50万円水準を採用。標準報酬月額の上限(厚生年金保険65万円)を踏まえ、月額70万円の役員報酬は標準報酬月額65万円相当として算定。所得税・住民税の影響は別途試算が必要であり、ここでは支給停止額と繰下げ増額の年金額レンジに焦点を当てます。実際の効果額は受給者の他の所得・健康寿命・地方税率等で個別変動します。
選択肢ごとの年金受取額の比較
3つの代表的な選択肢で年間の年金受給額を比較すると次のようになります。
| 選択肢 | 受給開始年齢 | 月額年金(増額後) | 在職老齢年金停止後の月額 | 年間年金受給額 |
|---|---|---|---|---|
| A. 65歳から本来額で受給開始 | 65歳 | 20万円 | 約2〜3万円(大幅停止) | 約24〜36万円 |
| B. 70歳まで繰下げ受給 | 70歳 | 28.4万円(42%増) | 70歳以降の在職状況による | 70歳開始で約180万〜340万円 |
| C. 75歳まで繰下げ受給 | 75歳 | 36.8万円(84%増) | 75歳以降の在職状況による | 75歳開始で約220万〜440万円 |
選択肢Aの構造的な落とし穴:報酬月額70万円・年金月額20万円のケースでは、合計90万円となり支給停止調整額50万円を40万円超過します。超過額の半額20万円が支給停止される結果、老齢厚生年金16万円のうち16万円全額が停止対象となり、実質受給できるのは老齢基礎年金4万円のみという計算になります(老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止対象外)。
選択肢B・Cの仕組み:繰下げ期間中は厚生年金保険の被保険者としての就労を継続するか、退職して報酬を下げるかで増額対象額が変わります。在職老齢年金で支給停止された期間の分は繰下げ増額の対象外となるため、報酬を下げて停止額を抑えながら繰下げる設計が、増額効果を最大化する前提となります。
なぜこの規模になるのか
在職老齢年金は「報酬と年金の合計が月50万円水準を超えると半額相当が停止される」という単純な仕組みのため、役員報酬月額が高水準の経営者は年金が大幅に停止される構造です。月額70万円の役員報酬を維持したまま65歳で年金受給を開始すると、老齢厚生年金が事実上ほぼ停止される結果となり、年金本来の意義が薄まる構造になります。
繰下げ受給は「年金を受け取らない期間」と引き換えに「終身受給する年金額の増額」を得る設計のため、健康寿命と損益分岐年齢の関係が判断の中核となります。70歳まで5年繰下げた場合、本来の受給開始から損益分岐に達するのは約81〜82歳前後(年金種類・税率帯で変動)、75歳まで10年繰下げた場合は約86〜87歳前後とされており、平均寿命まで生存する確率と健康寿命の見立てが選択の前提です。
効果額の前提と振れ幅
上記モデルケースは「役員報酬月額70万円・年金月額20万円・賞与なし」の条件での試算です。役員報酬の水準・賞与の有無・年金額・健康寿命の見立て・他の所得の状況で金額は大きく変動します。役員報酬を月額50万円程度まで下げれば在職老齢年金の支給停止額がゼロまたは少額に抑えられる一方、報酬減少分の手取りも下がるため、報酬と年金の総合手取りで判断する必要があります。
特に注意が必要なのは、平均寿命までの生存を前提に試算しても、実際の健康寿命(介護を必要とせず自立して生活できる期間)と一致するわけではない点です。繰下げ期間中に健康状態が悪化して受給開始前に死亡した場合、繰下げによる増額効果が得られないリスクが残ります。
規模感が掴めたところで、次に多くの経営者の方が突き当たるのが「では、在職老齢年金の支給停止額はどう計算するのか」という具体的な数値の問いです。次に支給停止計算の構造を掘り下げます。
在職老齢年金の支給停止計算(月50万円基準と総報酬月額相当額)
在職老齢年金の支給停止額は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超える部分の半額として計算されます。 ここからは少し細かい話になりますが、自身の役員報酬と年金の組み合わせで具体的にいくら止まるのかを判断するうえで核となる章です。
支給停止額の計算式
支給停止額の計算式は厚生年金保険法46条1項に基づき、次の式で示されます。
支給停止額 =(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 支給停止調整額)× 1/2
3要素のいずれもが、支給停止額を左右する変数となります。
- 基本月額: 老齢厚生年金の月額(加給年金額を除く)
- 総報酬月額相当額: 標準報酬月額 + 直近1年間の標準賞与額の総額 ÷ 12
- 支給停止調整額: 2026年度時点で月50万円水準(毎年度見直し)
計算結果が基本月額以上となる場合は、老齢厚生年金が全額支給停止となります。なお、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止対象外であり、報酬がいくら高くても支給停止されません。
役員報酬水準別の支給停止額の試算
役員報酬月額(標準報酬月額として上限65万円)と老齢厚生年金月額の組み合わせ別に、支給停止額を試算すると次のようになります。
| 役員報酬月額(標準報酬月額相当) | 老齢厚生年金月額 | 合計 | 支給停止調整額超過分 | 支給停止額(月) |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 16万円 | 46万円 | 0円(50万円以下) | 0円 |
| 40万円 | 16万円 | 56万円 | 6万円 | 3万円 |
| 50万円 | 16万円 | 66万円 | 16万円 | 8万円 |
| 60万円 | 16万円 | 76万円 | 26万円 | 13万円 |
| 65万円(上限) | 16万円 | 81万円 | 31万円 | 15.5万円(年金ほぼ全停止) |
役員報酬月額30万円までであれば老齢厚生年金は満額受給できる計算ですが、月額40万円を超えると支給停止が発生します。 月額65万円(標準報酬月額の上限)の経営者は、老齢厚生年金月額16万円のほぼ全額が停止される構造です。
役員報酬の水準調整による在職老齢年金の最適化
経営者の方が65歳以降も役員として報酬を受け取り続ける場合、役員報酬の水準を調整することで在職老齢年金の支給停止額をコントロールできる構造です。役員報酬の引下げによる支給停止額の減少は、報酬手取り減少と引き換えに年金受給額の確保を実現する設計となります。
但し、役員報酬の引下げには法人税法34条1項の定期同額給与のルール(事業年度開始から3ヶ月以内の改定が原則)が適用されるため、改定タイミングを逃すと損金算入できなくなる点に留意が必要です。65歳到達のタイミングと事業年度開始のタイミングを擦り合わせた報酬改定が運用上の前提となります。
在職定時改定の影響(2022年4月施行)
2022年4月施行の在職定時改定は、65歳以上で厚生年金被保険者として就労を継続する受給権者について、毎年9月1日基準で老齢厚生年金額を再計算し10月分から改定する仕組みです。それ以前は退職時または70歳到達時まで年金額が固定されていましたが、現在は在職中の保険料納付実績が毎年年金額に反映される構造に変わっています。
経営者の方が65歳以降も役員報酬を受け取り厚生年金保険料を納付し続ける場合、毎年の年金額が増えていく恩恵を享受できる一方、在職老齢年金の支給停止額計算も毎年見直される点が運用上の論点です。年金額の毎年改定により、支給停止額も連動して変動する構造となります。
繰下げ受給の損益分岐年齢(健康寿命との関係)
繰下げ受給は「受け取らない期間」と「終身受給する増額後年金」のトレードオフ構造のため、健康寿命と損益分岐年齢の関係が判断の中核となります。 ここでは少し難しい話に入りますが、効果額を最大化したい読者の方にとっては最も重要な章です。
繰下げ年数別の損益分岐年齢
繰下げ年数別の増額率と損益分岐年齢(本来65歳開始の累計年金額に到達する年齢)は次のように整理されます。
| 繰下げ年数 | 受給開始年齢 | 増額率 | 損益分岐年齢の目安 |
|---|---|---|---|
| 1年 | 66歳 | 8.4% | 約77〜78歳 |
| 3年 | 68歳 | 25.2% | 約79〜80歳 |
| 5年 | 70歳 | 42% | 約81〜82歳 |
| 7年 | 72歳 | 58.8% | 約83〜84歳 |
| 10年 | 75歳 | 84% | 約86〜87歳 |
損益分岐年齢を超えて生存すれば繰下げが得、超える前に死亡すれば繰下げが損という構造です。日本人の平均寿命は男性約81歳・女性約87歳とされ、健康寿命は男性約72歳・女性約75歳と言われています。平均寿命まで生存する前提では繰下げが有利となるレンジが広いものの、健康寿命を踏まえた老後生活の質との兼ね合いが選択の前提です。
老齢厚生年金と老齢基礎年金で別々に繰下げを選択する設計
繰下げ受給は老齢厚生年金(厚生年金保険法44条の3)と老齢基礎年金(国民年金法28条)で別々に選択可能です。経営者の方の場合、次のような分割設計も検討に値します。
- 老齢厚生年金は65歳から受給開始(在職老齢年金で停止される範囲を受け入れる)/老齢基礎年金のみ75歳まで繰下げ: 老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外のため、繰下げによる84%増のメリットを取りこぼさない設計
- 老齢厚生年金は70歳まで繰下げ/老齢基礎年金は65歳から受給開始: 在職老齢年金で停止される厚生年金部分を増額し、基礎部分は早期受給する設計
- 老齢厚生年金・老齢基礎年金とも75歳まで繰下げ: 健康寿命に強い自信がある場合の最大化設計
老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外で支給停止が発生しないため、繰下げによる増額効果がそのまま実現する構造です。 経営者の方が65歳以降も役員報酬を受け取り続ける場合、老齢基礎年金のみ繰下げる設計は損益分岐の見立てさえ立てば合理性の高い選択となります。
繰下げ受給の落とし穴:在職老齢年金で停止された分は増額対象外
繰下げ受給の増額計算は、本来65歳時点で受給開始する年金額のうち「繰下げ期間中に支給停止されなかった部分」のみが対象となる構造です。役員報酬が高水準で在職老齢年金により大幅に支給停止される状態のまま繰下げを選択すると、停止された部分は増額の対象外となり、繰下げによる増額効果が薄まります。
例えば役員報酬月額70万円のまま70歳まで5年繰下げた場合、繰下げ期間中の老齢厚生年金は事実上ほぼ全額が支給停止となり、増額対象は実質的にゼロに近い結果となります。繰下げの増額メリットを享受するには、繰下げ期間中の役員報酬を下げて在職老齢年金の停止額を抑える設計が前提です。
加給年金との関係
老齢厚生年金には、配偶者や子がいる場合に加算される加給年金があります(厚生年金保険法44条)。配偶者加給年金は配偶者が65歳になるまで受給可能ですが、老齢厚生年金を繰下げると加給年金も繰下げ期間中は受給できなくなります。
加給年金は年額約40万円規模(配偶者加給年金)となるため、配偶者が年下で加給年金の受給期間が長く残っている場合は、老齢厚生年金を繰下げずに65歳から受給開始したほうが有利となるケースがあります。加給年金の受給状況を踏まえた繰下げ判断が運用上の論点です。
よくある誤解と落とし穴
在職老齢年金と繰下げ受給は、それぞれの制度に固有の制約や注意点があります。 2制度を組み合わせて判断する際は、誤解と落とし穴を事前に整理しておくことが、効果額を取りこぼさないための前提となります。
誤解1:「在職老齢年金で止まった年金は、退職後にまとめて支給される」ではない
在職老齢年金で支給停止された年金は、後日まとめて支給される性質のものではありません。支給停止は「その月分の年金が消滅する」扱いであり、就労を続けている限り取り戻しはできない構造です。
退職して厚生年金被保険者でなくなれば、その月以降の支給停止は解消され、本来額の年金受給が再開されます。但し、停止された過去分の年金が遡って支給されることはなく、現役期に受給機会を逃した分は永久に手元に入らない設計となっています。
誤解2:「繰下げ受給を申請すれば、繰下げ期間中の年金が後でもらえる」ではない
繰下げ受給は「繰下げ期間中の年金を受け取らない代わりに、繰下げ後の年金額を増額する」設計です。繰下げ期間中の年金が積み立てられて後日支給されるわけではなく、繰下げ期間中の受給機会は消滅します。
繰下げを選択した後で「やはり65歳に遡って受給したい」と申請を変更することも可能ですが、この場合は繰下げによる増額がなくなり、本来額(増額なし)が65歳に遡って一括支給される扱いとなります。繰下げを選択するか遡及一括受給を選択するかは、繰下げ申請時点ではなく実際の受給開始タイミングで判断できる構造です。
落とし穴1:在職老齢年金の支給停止調整額は毎年度見直される
支給停止調整額は2026年度時点で月50万円水準ですが、厚生年金保険法46条1項により毎年度の物価・賃金変動を踏まえて見直される構造です。過去には月47万円・48万円水準で運用されていた時期もあり、将来的に上下動する可能性があります。
長期の年金設計を立てる際は、支給停止調整額が毎年変動しうる前提で複数シナリオを検討する必要があります。経営者の方が役員報酬を支給停止調整額ギリギリの水準に設定している場合、調整額の引下げで年金停止が発生する可能性も残る構造です。
落とし穴2:繰下げ期間中に死亡した場合の遺族の取り扱い
繰下げ受給を申請して受給開始前に死亡した場合、遺族が繰下げによる増額分を受け取れるわけではありません。65歳から死亡時点までの本来額の年金(繰下げ申請がなかった場合の年金額)が、未支給年金として遺族に支給される扱いです。
繰下げを選択した結果、繰下げ期間中の年金を本人も遺族も受け取れずに終わるケースが発生する点が、繰下げ受給の構造的なリスクです。健康状態に不安がある場合や家族の生活設計上の必要性が高い場合は、繰下げではなく65歳から本来額で受給開始する選択のほうが合理性が高いケースもあります。
落とし穴3:給与所得+公的年金等雑所得が10万円超の場合の所得金額調整控除
所得税法28条4項により、給与収入と公的年金等収入の両方がある場合で、給与所得控除後の給与所得+公的年金等控除後の雑所得の合計が10万円を超えるときは、所得金額調整控除(最大10万円)の対象となります。
経営者の方が65歳以降も役員報酬と年金を併給する場合、給与所得控除と公的年金等控除を二重に享受する形にはならず、所得金額調整控除で一定の調整が入る点が運用上の前提です。給与と年金の組み合わせによる所得圧縮効果は、シミュレーション上でこの調整控除を反映した試算が必要となります。
運用負荷(年金事務所届出・年次対応)
在職老齢年金と繰下げ受給の運用には、受給開始時に発生する届出手続と、毎年継続的に発生する年次対応の2種類があります。 効果額と同じ秤に乗せて評価することが価値判定の前提となります。
受給開始時の届出(年金請求書・繰下げ申出書)
65歳到達時には、日本年金機構から「年金請求書」が事前送付されます。年金請求書には在職老齢年金の対象となる場合の記載欄や、繰下げを希望する場合の選択欄が含まれており、本人の選択に応じて記入し提出する流れです。
繰下げ受給を希望する場合は、65歳時点では請求しない選択を行い、繰下げ受給を開始したい時期に「老齢厚生年金支給繰下げ請求書」または「老齢基礎年金支給繰下げ請求書」を年金事務所に提出します。請求書の提出には事前相談(年金事務所での個別相談)が推奨されており、自身のケースで具体的にいくらの増額となるかの試算を踏まえた選択が運用上の前提です。
経営者の方の場合、65歳到達のタイミングで会社の役員報酬水準と年金受給開始時期を整理し、在職老齢年金の支給停止額と繰下げ増額のトレードオフを判断する必要があります。年金事務所での個別相談では、本人の標準報酬月額と年金額に基づく支給停止額試算と繰下げシミュレーションが提供されるため、相談機会の活用が標準的な段取りとなります。
継続的な年次対応の負荷(在職定時改定の確認・健康状態の見直し)
導入後は毎年9月の在職定時改定に伴う年金額の再計算結果の確認が発生します。日本年金機構から送付される改定通知書で、新しい年金月額と支給停止額の組み合わせを確認し、必要に応じて役員報酬の水準調整を検討するサイクルです。
繰下げ受給を選択している期間中は、毎年の健康状態の見直しと家族の生活設計の点検が運用上の負荷となります。繰下げ期間中であっても、いつでも繰下げ受給を開始するか65歳遡及で本来額の一括受給を選択するかを切り替えられる構造のため、健康状態の変化に応じた柔軟な判断が可能な反面、判断のタイミングを逃さない継続的な見直しが必要です。
役員報酬の改定は事業年度開始から3ヶ月以内の定期同額給与のルール(法人税法34条1項)に従うため、年金支給停止額の最適化と役員報酬改定タイミングのすり合わせが、毎年の事務サイクルとして発生します。会社の決算月と65歳到達月の組み合わせで、年金最適化のタイミング設計が変わる点に留意が必要です。
手続負荷を抑えるための運用整理
2制度の手続負荷を抑えるには、以下の運用整理が現実的です。第一に、年金事務所での個別相談を65歳到達の半年前から開始する、第二に、社会保険労務士または年金設計に踏み込んだ専門サービスを活用して支給停止額と繰下げ増額のシミュレーションを継続的に更新する、第三に、会社の決算月と役員報酬改定月を65歳到達のタイミングと整合させて、年金最適化と役員報酬設計を一体運用する――という3点です。
事務処理を自身で回すか、社会保険労務士・専門サービスに依頼するかで負荷の所在は変わります。いずれの場合も、老後手取りを最適化するためのコストとして継続的に発生する性質のものです。「効果が小さい割に手続負荷が大きい」という構造に陥らないためには、設計段階で在職老齢年金・繰下げ受給・役員報酬改定をセットで整理する必要があります。
まとめ
在職老齢年金と繰下げ受給は4つの法的根拠を持つ年金制度であり、65歳以降の経営者・役員1名あたり年間60〜120万円規模で老後の手取り総額が変動する設計が現実的に得られます(効果額は受給者の役員報酬水準・健康寿命・他の所得の状況により個別変動)。一方で「65歳到達と同時に何もせず受給開始」「役員報酬を高水準のまま維持して年金を大幅停止のまま放置」「老齢基礎年金まで一律に65歳開始」といった通常運用では効果が大きく目減りし、業界実態に即した設計(役員報酬水準の調整・厚生年金と基礎年金の別々の繰下げ判断・在職定時改定の年次反映)には踏み込んだ知見が必要です。
在職老齢年金と繰下げ受給は、厚生年金保険法・国民年金法・所得税法の3方向にわたって裏付けを持つ年金制度です。効果額は受給者の役員報酬水準・健康寿命の見立て・他の所得の状況によって変動し、65歳以降も役員報酬を受け取る経営者の局面では年間60〜120万円規模のレンジが現実的なケースとして見込まれます。誤解や落とし穴(在職老齢年金で止まった年金は遡及支給されない・繰下げ期間中の死亡では遺族が増額分を受け取れない・所得金額調整控除の影響)と継続的な手続負荷というコスト要素も並走しますが、役員報酬と年金受給開始年齢を一体で設計すれば、老後手取りを最適化する仕組みとして機能します。自分で取り組むかどうかは、自身の役員報酬水準・健康寿命の見立て・家族の生活設計から得られる効果額の見立てと、年次の手続事務リソース・専門サービスへのアクセスを照らし合わせて判断するのが現実的です。
自社の状況で具体的に検討したい方へ
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よくある質問(FAQ)
Q1. 在職老齢年金で年金が止まるのは月いくらの報酬からですか?
A. 厚生年金保険法46条1項により、基本月額(老齢厚生年金月額)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+直近1年の標準賞与額の12分の1)の合計が支給停止調整額(2026年度時点で月50万円水準)を超える場合に、超えた額の2分の1相当が支給停止される構造です。例えば年金月額20万円・役員報酬月額70万円のケースでは合計90万円となり、50万円を超えた40万円の半額20万円が支給停止される結果、年金が全額止まる計算となります。支給停止調整額は毎年度見直されるため、最新値の確認が運用上の前提です。
Q2. 繰下げ受給の増額率はどれくらいですか?最大何歳まで繰下げできますか?
A. 厚生年金保険法44条の3および国民年金法28条により、65歳から最大75歳まで繰下げ可能で、1ヶ月あたり0.7%ずつ増額される構造です。最大10年(120ヶ月)繰下げると84%増、5年繰下げで42%増となり、本来月20万円受給する年金は75歳開始で月36.8万円・70歳開始で月28.4万円に拡大します。但し、増額された年金額は終身受給する一方で、繰下げ期間中は年金を受け取れない期間損失があるため、健康寿命と損益分岐年齢の関係を踏まえた判断が必要です。
Q3. 在職老齢年金で停止された分は、繰下げ受給の増額対象になりますか?
A. 繰下げ受給の増額計算は、本来65歳時点で受給開始する年金額のうち「繰下げ期間中に支給停止されなかった部分」のみが対象です。在職老齢年金で支給停止された部分は、繰下げによる増額の対象外として扱われる構造のため、報酬が高水準で年金が大幅に停止される状態のまま繰下げを選択しても、思ったほどの増額が得られないケースがあります。役員報酬の水準を調整して在職老齢年金の停止額を抑えつつ繰下げを選択する設計が、効果額の最大化につながる前提です。
Q4. 在職定時改定とは何ですか?経営者にも関係しますか?
A. 2022年4月施行の制度で、65歳以上で厚生年金被保険者として就労を継続する方について、毎年9月1日基準で老齢厚生年金額を再計算し10月分から改定する仕組みです。それ以前は退職時または70歳到達時まで年金額が固定されていましたが、現在は在職中の保険料納付実績が毎年年金額に反映される構造に変わっています。65歳以降も会社から役員報酬を受け取り厚生年金保険料を払い続ける経営者は、毎年の年金額が増えていく恩恵を享受できる一方、在職老齢年金の停止額計算も毎年見直される点が運用上の論点です。
Q5. 65歳以降の年金には公的年金等控除はどう適用されますか?
A. 所得税法35条4項により、公的年金等の収入金額から年齢区分・収入金額に応じた公的年金等控除額が差し引かれた残額が雑所得として課税される構造です。65歳以上の場合、公的年金等の収入が330万円以下なら控除額110万円、330万円超410万円以下なら収入金額×25%+27万5千円などの段階的な控除が適用されます。役員報酬と年金を併給する経営者は、給与所得控除と公的年金等控除の両方を享受できる点が手取り最適化のポイントとなりますが、所得税法28条4項により給与所得+公的年金等雑所得が10万円を超える場合は所得金額調整控除の対象となります。
Q6. 顧問税理士に相談すれば、在職老齢年金と繰下げ受給の最適な組み合わせを設計してもらえますか?
A. 顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)は法人税務が中心で、在職老齢年金や繰下げ受給は社会保険・年金制度の領域として通常業務範囲の周辺に位置することが多い傾向があります。役員報酬の水準調整と年金支給停止額の連動・繰下げ期間の損益分岐年齢試算・在職定時改定の年次反映まで踏み込んだ提案には、社会保険労務士や年金事務所への個別相談、または年金設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。経営者個人の老後手取り最大化は、会社の役員報酬設計と並走する論点として整理する必要があります。
出典・参考
- 厚生年金保険法 第46条(支給停止)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115 (2026-05-03 確認)
- 厚生年金保険法 第44条の3(支給の繰下げ)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115 (2026-05-03 確認)
- 国民年金法 第28条(支給の繰下げ)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000141 (2026-05-03 確認)
- 所得税法 第35条(雑所得)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033 (2026-05-03 確認)
- 所得税法 第28条(給与所得)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033 (2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『在職老齢年金の計算方法』 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401.html (2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『年金の繰下げ受給』 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html (2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『在職定時改定の導入』 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20220304.html (2026-05-03 確認)
- 国税庁タックスアンサー No.1600 公的年金等の課税関係 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm (2026-05-03 確認)
- 厚生労働省『高齢期における社会保障制度の在り方』 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaiseikensyo/index.html (2026-05-03 確認)
よくある質問
- Q. 在職老齢年金で年金が止まるのは月いくらの報酬からですか?
- 厚生年金保険法46条1項により、基本月額(老齢厚生年金月額)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+直近1年の標準賞与額の12分の1)の合計が支給停止調整額(2026年度時点で月50万円水準)を超える場合に、超えた額の2分の1相当が支給停止される構造です。例えば年金月額20万円・役員報酬月額70万円のケースでは合計90万円となり、50万円を超えた40万円の半額20万円が支給停止される結果、年金が全額止まる計算となります。支給停止調整額は毎年度見直されるため、最新値の確認が運用上の前提です。
- Q. 繰下げ受給の増額率はどれくらいですか?最大何歳まで繰下げできますか?
- 厚生年金保険法44条の3および国民年金法28条により、65歳から最大75歳まで繰下げ可能で、1ヶ月あたり0.7%ずつ増額される構造です。最大10年(120ヶ月)繰下げると84%増、5年繰下げで42%増となり、本来月20万円受給する年金は75歳開始で月36.8万円・70歳開始で月28.4万円に拡大します。但し、増額された年金額は終身受給する一方で、繰下げ期間中は年金を受け取れない期間損失があるため、健康寿命と損益分岐年齢の関係を踏まえた判断が必要です。
- Q. 在職老齢年金で停止された分は、繰下げ受給の増額対象になりますか?
- 繰下げ受給の増額計算は、本来65歳時点で受給開始する年金額のうち「繰下げ期間中に支給停止されなかった部分」のみが対象です。在職老齢年金で支給停止された部分は、繰下げによる増額の対象外として扱われる構造のため、報酬が高水準で年金が大幅に停止される状態のまま繰下げを選択しても、思ったほどの増額が得られないケースがあります。役員報酬の水準を調整して在職老齢年金の停止額を抑えつつ繰下げを選択する設計が、効果額の最大化につながる前提です。
- Q. 在職定時改定とは何ですか?経営者にも関係しますか?
- 2022年4月施行の制度で、65歳以上で厚生年金被保険者として就労を継続する方について、毎年9月1日基準で老齢厚生年金額を再計算し10月分から改定する仕組みです。それ以前は退職時または70歳到達時まで年金額が固定されていましたが、現在は在職中の保険料納付実績が毎年年金額に反映される構造に変わっています。65歳以降も会社から役員報酬を受け取り厚生年金保険料を払い続ける経営者は、毎年の年金額が増えていく恩恵を享受できる一方、在職老齢年金の停止額計算も毎年見直される点が運用上の論点です。
- Q. 65歳以降の年金には公的年金等控除はどう適用されますか?
- 所得税法35条4項により、公的年金等の収入金額から年齢区分・収入金額に応じた公的年金等控除額が差し引かれた残額が雑所得として課税される構造です。65歳以上の場合、公的年金等の収入が330万円以下なら控除額110万円、330万円超410万円以下なら収入金額×25%+27万5千円などの段階的な控除が適用されます。役員報酬と年金を併給する経営者は、給与所得控除と公的年金等控除の両方を享受できる点が手取り最適化のポイントとなりますが、所得税法28条4項により給与所得+公的年金等雑所得が10万円を超える場合は所得金額調整控除の対象となります。
- Q. 顧問税理士に相談すれば、在職老齢年金と繰下げ受給の最適な組み合わせを設計してもらえますか?
- 顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)は法人税務が中心で、在職老齢年金や繰下げ受給は社会保険・年金制度の領域として通常業務範囲の周辺に位置することが多い傾向があります。役員報酬の水準調整と年金支給停止額の連動・繰下げ期間の損益分岐年齢試算・在職定時改定の年次反映まで踏み込んだ提案には、社会保険労務士や年金事務所への個別相談、または年金設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。経営者個人の老後手取り最大化は、会社の役員報酬設計と並走する論点として整理する必要があります。
出典・参考
- 厚生年金保険法 第46条(支給停止)(2026-05-03 確認)
- 厚生年金保険法 第44条の3(支給の繰下げ)(2026-05-03 確認)
- 国民年金法 第28条(支給の繰下げ)(2026-05-03 確認)
- 所得税法 第35条(雑所得)(2026-05-03 確認)
- 所得税法 第28条(給与所得)(2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『在職老齢年金の計算方法』(2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『年金の繰下げ受給』(2026-05-03 確認)
- 日本年金機構『在職定時改定の導入』(2026-05-03 確認)
- 国税庁タックスアンサー No.1600 公的年金等の課税関係(2026-05-03 確認)
- 厚生労働省『高齢期における社会保障制度の在り方』(2026-05-03 確認)
