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【完全ガイド】役員社宅で手取りを増やす設計|4つの法的根拠と賃貸料相当額の計算式を整理

役員社宅で手取りを増やす設計とは。4つの法的根拠・賃貸料相当額の計算式・1名年100万円超の効果額・否認の典型パターンから判断材料を整理します。

公開 2026-05-04
役員社宅節税賃貸料相当額社宅規程中小企業
目次33
  1. 結論:4つの法的根拠と1名あたり年100万円超のメリット
  2. 役員社宅の節税効果は4つの法律に根拠がある
  3. 所得税が課税対象から外れる仕組み(所得税基本通達36-40)
  4. 社会保険料の対象外になる仕組み(健康保険法3条5項)
  5. 法人税の損金に算入できる仕組み(法人税法22条3項2号)
  6. 消費税が非課税取引となる仕組み(消費税法別表第一13号)
  7. 4つの法的根拠の対応関係
  8. 効果額:1名あたり年間100万円超の手取り増も現実的
  9. モデルケース:1名あたり年間120万円超の効果
  10. なぜこれだけの規模になるのか
  11. 効果額の前提と振れ幅
  12. 賃貸料相当額の計算式と「小規模住宅」要件
  13. 「小規模住宅」の判定基準(通達36-41)
  14. 小規模住宅の賃貸料相当額(通達36-41)
  15. 小規模住宅に該当しない一般住宅の計算式(通達36-40)
  16. 賃貸料相当額の徴収不足は給与課税の対象になる
  17. 通常通りの整備で効果が小さくなる構造的課題
  18. 課題1:「家賃50%ルール」が画一的に当てはめられている
  19. 課題2:固定資産税課税標準額の取得が後回しにされがち
  20. 課題3:効果が小さい割に運用負荷が大きく、継続できない
  21. なぜこの構造が放置されがちなのか
  22. 否認の典型パターンと防御設計
  23. 否認の4つの典型パターン
  24. 否認する側にとっての論点 — 計算根拠と徴収実態
  25. 運用負荷の2種類(規程整備・継続的事務)
  26. 規程整備の負荷(導入時に1回)
  27. 継続的事務の負荷(毎月の徴収・契約更新・規程の見直し)
  28. まとめ
  29. 自社の状況で具体的に検討したい方へ
  30. ① 削減事例集(無料・資料請求)
  31. ② オンライン説明会(事例集に載っていない事例も含めて)
  32. よくある質問(FAQ)
  33. 出典・参考

「役員社宅を入れると手取りが増えるって聞いたけど、うちの規模で本当に取り組む価値があるのか…」――中小企業の経営者・経理担当者の方から、最も多く聞かれる質問です。耳にしたことはあるけれど、自社のおカネと手間に見合うかが見えない。しかし、本当にやる価値があるのか? そう感じている方が多いのではないでしょうか。

役員社宅とは、会社が大家から物件を借り上げ、役員に貸し付けた上で、家賃の一部を会社負担にすることで個人と会社の双方の税・社保負担を圧縮する仕組みを指します。所得税基本通達36-40で定める賃貸料相当額以上を本人から徴収する限り、給与課税・社会保険の対象から外れる扱いとなります。

役員社宅の節税効果は4つの法律に明確な根拠を持つ制度です。一方で「家賃50%を会社負担」という画一的な設計が業界に広まっており、本来の効果額の3〜5分の1程度に収まってしまうケースが多く見られます。価値判定は効果額と運用負荷を秤にかける領域です。


結論:4つの法的根拠と1名あたり年100万円超のメリット

役員社宅の節税効果は4法(所得税基本通達36-40・健保法3条5項・法人税法22条3項2号・消費税法別表第一13号)に分散する根拠を持ち、役員1名あたりで年間100万円超の手取り増を生むケースが現実的にあります。一方で賃貸料相当額の計算式は通達上やや込み入っており、通常通りの整備では効果が小さくなりやすい構造的な課題もあります。否認リスクは存在するものの、規程・機関決定・徴収実態の3点を整えれば大半は防御可能と考えられます。

では、その「4つの法的根拠」とは具体的に何なのか。次の章から順に整理します。


役員社宅の節税効果は4つの法律に根拠がある

結論から言うと、役員社宅の節税効果は4つの法律にバラバラに分散して根拠を持つ、極めて筋の通った制度です。 違法な節税スキームではなく、所得税・社会保険・法人税・消費税の4方向に条文・通達上の裏付けを持ちます。

要点は4つです。

  1. 所得税は賃貸料相当額以上を本人徴収すれば「経済的利益」が発生せず給与課税の対象外となる(所得税基本通達36-40・36-41)
  2. 社会保険料は「報酬」に該当せず対象外となる(健保法3条5項・厚年法3条1項3号)
  3. 法人税は会社が大家に支払う家賃と本人徴収額の差額が損金として算入できる(法人税法22条3項2号)
  4. 消費税は住宅の貸付けが非課税取引のため、会社側で支払家賃の仕入税額控除はできない(消費税法別表第一13号)

通達番号にあまり馴染みがない方は、各小見出しの冒頭1〜2文だけ読み流していただいても要点は掴めます。

所得税が課税対象から外れる仕組み(所得税基本通達36-40)

所得税基本通達36-40では、役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額(賃貸料相当額)の計算式が次のように規定されています。

使用者が役員に対して貸与した住宅等(第36-41に定める住宅等を除く。以下36-43までにおいて同じ。)に係る通常の賃貸料の額は、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額(その額が現に支払を受けている使用料の額に満たない場合には、その満たない部分の金額を含む。)に相当する金額とする。

(1)自社所有の住宅等である場合 次に掲げる金額の合計額の12分の1に相当する金額

イ その年度の家屋の固定資産税の課税標準額(当該家屋について固定資産税の課税標準額の改訂があつた場合には、当該改訂後の課税標準額。ロにおいて同じ。)の12%(家屋の耐用年数が30年を超える場合には10%)に相当する金額

ロ その年度の敷地の固定資産税の課税標準額の6%に相当する金額

(2)他から借り受けた住宅等を貸与する場合 当該住宅等につき支払う賃借料の額の50%に相当する金額と(1)により計算した金額とのいずれか多い金額

上記の通達を地の文で整理すると、賃貸料相当額(月額)は固定資産税課税標準額に一定割合を乗じて算出する仕組みです。実際には小規模住宅向けに、より緩い計算式が別途定められています(次の小規模住宅の章で扱います)。本人がこの賃貸料相当額以上を会社に支払っていれば、所得税基本通達36-15に定める「経済的利益」が発生せず、給与課税の対象から外れる扱いとなります。但し、通達は法令ではなく行政の解釈指針であり、法的拘束力はないものの、税務署の運用方針として実務上は遵守が必要とされています。

社会保険料の対象外になる仕組み(健康保険法3条5項)

健康保険法3条5項では、次のように規定されています。

この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。(後略)

上記の条文を要約すると、賃貸料相当額以上を本人徴収している社宅家賃の差額部分は「労働の対償」に該当せず、報酬の定義から外れる整理となります。社宅貸与の経済的利益が「給与」として扱われない場合、社会保険料の標準報酬月額の算定基礎にも含まれません。本人負担分だけでなく会社負担分の社保料も削減される点が、所得税課税対象外の効果と並ぶメリットです。

法人税の損金に算入できる仕組み(法人税法22条3項2号)

法人税法22条3項2号は損金算入対象を「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用」と定めています。会社が大家に支払う家賃のうち、本人徴収額を控除した差額部分は、業務遂行に必要な福利厚生費として損金算入の対象となるのが一般的です。社宅規程に基づく支給・取締役会決議等の機関決定・賃貸料相当額の計算根拠の3点を満たすことが、損金として認められる前提とされています。

消費税が非課税取引となる仕組み(消費税法別表第一13号)

消費税法別表第一13号は、住宅の貸付けを非課税取引として規定しています。会社が大家に支払う社宅家賃は非課税仕入れとなり、仕入税額控除の対象にはなりません。同時に、会社が役員から徴収する賃貸料相当額も非課税売上として扱われるため、消費税の納税負担にも仕入税額控除の恩恵にも影響を与えない設計となります。出張日当のように消費税の仕入税額控除が積み上がる効果はありません。

4つの法的根拠の対応関係

法律効果が及ぶ対象仕組み
所得税基本通達36-40受給者賃貸料相当額以上を徴収すれば給与課税の対象外
健康保険法3条5項・厚年法3条1項3号受給者・会社標準報酬月額の対象外(社保本人分・会社分とも削減)
法人税法22条3項2号会社会社負担分を損金算入し法人税の課税所得を圧縮
消費税法別表第一13号会社住宅の貸付けは非課税取引(仕入税額控除なし)

役員社宅は通達と条文に裏付けられた制度として整理できます。では自社で導入したら実際にどれくらいの効果額が見込めるのか。ここからは効果額の規模感に踏み込みます。


効果額:1名あたり年間100万円超の手取り増も現実的

役員社宅による節税は、役員1名あたりで年間100万円超の手取り増を生むケースが現実的にあります。 まずは具体的な数値で規模感を掴んでください。

モデルケース:1名あたり年間120万円超の効果

以下の条件で試算した場合、年間総削減額は約120万円となります。

項目
受給者の月額役員報酬80万円
借上社宅の月額家賃(会社が大家に支払う額)20万円
物件の床面積70㎡(小規模住宅に該当)
賃貸料相当額(本人徴収額)月額3万円(固定資産税課税標準額ベースで算定)
都道府県東京都(協会けんぽ料率)

試算前提:協会けんぽ東京都2026年度料率(健康保険9.98%/介護保険1.6%/厚生年金18.3%)を適用。給与所得控除後の課税所得帯(330万円超695万円以下)として所得税限界税率20%・住民税10%を前提に算出。社会保険料は標準報酬月額の上限到達前の帯域を仮定しています。あくまでモデル試算であり、実際の効果額は受給者の課税所得帯・物件の固定資産税課税標準額・社保上限到達状況・都道府県(健保料率)等の個別条件で大きく変動します。

役員報酬を月額80万円から63万円に減額し、差額17万円を社宅家賃の会社負担に振り替える設計を取った場合、年間の削減内訳は次のようになります。

削減項目金額/年
所得税¥408,000
住民税¥204,000
社会保険料(本人分)¥298,000
社会保険料(会社分)¥298,000
個人側合計(手取り増)¥910,000
会社側合計(コスト減)¥298,000
総削減額¥1,208,000

役員1名でこの規模です。 役員3名分なら年間約360万円のレンジに入ります。役員報酬の水準が高いほど、限界税率と社保料率の積み上がりで効果額は大きくなる傾向があります。

なぜこれだけの規模になるのか

効果額は3方向から同時に積み上がります。役員報酬の減額に伴い、受給者側で所得税・住民税・社保本人分が減り、会社側で社保会社分が積み上がる構造です。「受給者のおカネ」と「会社のおカネ」の両側から同時に節税が出る両建てが、役員社宅が「メリットの大きな制度」と呼ばれる理由です。

会社が大家に支払う家賃は元々経費扱いで、社宅化により損金性そのものが新しく生まれるわけではありません。重要なのは、役員報酬を減額して社宅家賃補助に振り替えることで、給与・社会保険の双方で課税基礎が縮小する点にあります。

効果額の前提と振れ幅

上記モデルケースは「月収80万円・家賃20万円・賃貸料相当額3万円」の条件での試算です。受給者の役員報酬・物件の家賃水準・固定資産税課税標準額・都道府県(健保料率)・社保上限到達状況によって金額は変わります。役員報酬が高くなれば限界税率が上がるため効果額は上振れし、家賃水準が低くなれば比例して下振れします。

規模感が掴めたところで、次に多くの経営者の方が突き当たるのが「では、本人徴収額はいくらに設定すればよいのか」という金額そのものの問いです。ここから先は、所得税基本通達36-40・36-41の計算式と「小規模住宅」要件に踏み込みます。


賃貸料相当額の計算式と「小規模住宅」要件

役員社宅の本人徴収額は、所得税基本通達36-40・36-41で定める賃貸料相当額以上に設定する必要があります。 ここからは少し難しい話に入りますが、効果額を最大化したい読者の方にとっては最も重要な章です。難しい部分は無理に理解していただく必要はなく、「自社の物件が小規模住宅に該当するかどうか」だけ押さえておけば十分です。

「小規模住宅」の判定基準(通達36-41)

所得税基本通達36-41では、小規模な住宅の範囲が次のように規定されています。

36-40及び前項本文の住宅等とは、法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積(区分所有の建物は、専有部分の床面積)が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積(区分所有の建物は、専有部分の床面積)が99平方メートル以下である住宅(これらの住宅等が独立家屋以外の家屋である場合には、当該独立家屋以外の家屋の各独立部分をいう。)をいう。

上記の通達を地の文で整理すると、次のようになります。

  1. 木造等(法定耐用年数30年以下): 床面積132㎡以下が小規模住宅
  2. 鉄筋コンクリート造等(法定耐用年数30年超): 床面積99㎡以下が小規模住宅

中小企業の役員社宅で扱う物件の多くは、この基準を満たして小規模住宅に該当します。なお、共用部分の按分計算など細かい論点もありますが、実務上は登記簿または賃貸借契約書の専有面積で判定するのが一般的です。

小規模住宅の賃貸料相当額(通達36-41)

小規模住宅に該当する場合、所得税基本通達36-41の計算式を地の文で整理すると、賃貸料相当額(月額)は次の3要素の合計で算出します。

  1. その年度の家屋の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
  2. 12円 ×(家屋の総床面積〈平方メートル〉/3.3平方メートル)
  3. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

固定資産税課税標準額に対する0.2%・0.22%という極めて低い割合と、床面積ベースの定額部分を合算する仕組みです。実際の計算例を見ると、家賃20万円の借上物件でも、賃貸料相当額は月額3〜5万円相当に収まるケースが見られます。つまり、本人は数万円を会社に支払うだけで、給与課税・社会保険料の対象から外れる扱いとなります。 但し、固定資産税課税標準額は物件ごとに大きく変動するため、自社物件での具体額は市区町村の評価証明書で個別に算定する必要があります。

固定資産税課税標準額は、大家(物件オーナー)の協力を得て市区町村から評価証明書を取得すれば確認できます。賃貸契約と同時に、評価証明書の取得を契約条件に含めておくのが実務上のセオリーです。

小規模住宅に該当しない一般住宅の計算式(通達36-40)

法定耐用年数の基準を超える物件(132㎡超/99㎡超)は「一般住宅」として扱われ、賃貸料相当額の計算式は異なります。借上社宅の場合、次のいずれか多い額が賃貸料相当額となります。

  1. 通達36-40の計算式で算出した金額(建物課税標準額×12%(30年超は10%)/12 + 敷地課税標準額×6%/12)
  2. 会社が大家に支払う家賃の50%相当額

「家賃の50%」という基準は、この一般住宅向けの計算式の片方として登場します。「家賃50%ルール」が業界に広まっている背景には、一般住宅基準を全物件に画一的に当てはめてしまう運用が定着している事情があります。一般住宅と小規模住宅では計算式が大きく異なり、本人徴収額の水準も3〜5倍の差が生じる構造です。

賃貸料相当額の徴収不足は給与課税の対象になる

国税庁タックスアンサーNo.2600では、本人徴収額が賃貸料相当額に満たない場合の取扱いが次のとおり整理されています。

役員に貸与した社宅の賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合には、賃貸料相当額と受け取っている家賃との差額が、給与として課税されます。

上記の整理を地の文で言い換えると、本人徴収額が賃貸料相当額を下回ると、その差額が「経済的利益」として給与課税・社会保険料の対象に戻ってしまう、ということです。徴収額の設定ミスは効果額を直接毀損するため、計算根拠の文書化と給与計算上の徴収実態の継続が要となります。なお、タックスアンサーは法令・通達ではなく国税庁による解説であり、法的拘束力はないものの、実務上の運用指針として参照されています。


通常通りの整備で効果が小さくなる構造的課題

ここで、ガイドや書籍に書かれている「定石」のままに役員社宅を整備すると、効果が思ったほど大きくならない――という実態の話を1章だけ挟みます。「やる価値があるか」を判断するうえで避けて通れない論点だからです。

課題1:「家賃50%ルール」が画一的に当てはめられている

実務上、中小企業の役員社宅整備では「無難な相場」として家賃50%を本人徴収額に設定するケースが多く見られます。前の章で見たとおり、家賃50%は所得税基本通達36-40の一般住宅向け計算式の片方であり、小規模住宅には本来適用されない水準です。

例えば家賃20万円の小規模住宅で、固定資産税課税標準額から算定した賃貸料相当額が月額3万円程度となるケースを想定すると、次のような対比になります(実際の賃貸料相当額は物件の固定資産税課税標準額によって大きく変動するため、自社物件では市区町村の評価証明書で個別に算定する必要があります)。

設定方法本人徴収額(月額)役員報酬の振替可能額
家賃50%ルール(一般住宅基準を画一適用)10万円10万円
賃貸料相当額(小規模住宅基準・モデルケース)約3万円約17万円

役員報酬の振替可能額が数倍変わるため、節税効果も比例して大きく変わる構造です。「無難な家賃50%」と「業界実態の小規模住宅基準」――この差が、効果額の規模感を数倍単位で変えうる構造です。

課題2:固定資産税課税標準額の取得が後回しにされがち

賃貸料相当額の計算には、物件の固定資産税課税標準額(建物・敷地)の数値が必要です。これは大家(物件オーナー)が市区町村に評価証明書を申請して取得する必要があり、賃貸契約後に依頼すると入居後に手間取るケースも多く見られます。

入居前の段階で「評価証明書の取得協力」を契約条件に含めておけば数日で済む手続きが、入居後に依頼すると大家の協力意欲が下がり、結果として「もう家賃50%でいいか」と妥協する流れになりがちです。設計段階の段取りが効果額を左右する構造があります。

課題3:効果が小さい割に運用負荷が大きく、継続できない

課題1と課題2で効果額が小さく出てしまうと、毎月の本人徴収・賃貸借契約の管理・規程の見直しといった運用負荷とのバランスが悪くなります。「数十万円のために毎月の事務負荷を背負うか」という秤にかけたとき、運用が形骸化したり、数年で取り組みが止まったりする例も少なくありません。

なぜこの構造が放置されがちなのか

ここで「では、なぜ顧問税理士に相談すれば最適な設計が出てくるのではないか?」と思われるかもしれません。しかし業界の構造として、顧問税理士に役員社宅の踏み込んだ節税提案を期待しにくい事情があります。

第一に、顧問税理士の収入構造は月次顧問料・決算料が中心で、節税提案の成果に応じた報酬体系にはなっていないことが一般的です。提案にかける時間が顧問料の中で消化されるため、踏み込んだ節税提案にインセンティブが働きにくい構造になっています。第二に、役員社宅は通達上の判定要件がやや込み入っており、税務調査で否認された場合のリスク(顧客との信頼関係毀損・損害賠償リスク)を顧問税理士側が背負うことになります。リスクを取って攻めた提案をするより、安全側の保守的な水準(家賃50%一律)を勧める動機のほうが強くなりがちです。

これは顧問税理士個人の能力や姿勢の問題ではなく、ビジネスモデルと責任構造から生じる業界の構造的な傾向として理解する必要があります。役員社宅の設計を「顧問税理士に丸投げ」しても、効果額の規模感が発揮されにくい――これが本章の要点です。


否認の典型パターンと防御設計

役員社宅の否認リスクは、規程と徴収実態の不備に集中する領域です。 ただし、否認が起きるケースには共通したパターンがあり、これらに該当しない設計であれば防御可能性は高まると考えられます。否認の4典型を避けて、規程・機関決定の記録・徴収実態の3点を整えれば、過度に怯えて導入を見送るのはやや惜しい選択になりうる、という構造です。

否認の4つの典型パターン

税務調査で役員社宅が「給与」として否認される典型パターンは、実務上以下の4類型に集約されます。

  • 規程不備: 社宅規程・借上規程が存在しない、または内容が形骸化している
  • 賃貸料相当額の計算ミス: 小規模住宅と一般住宅の区分間違い、固定資産税課税標準額の取得不足、本人徴収額の不足
  • 対象者ルールの形骸化: 役員のみ、または特定の家族・親族のみが対象でルールが恣意的
  • 業務遂行性の欠如: 業務との関連性が薄い物件(リゾート地の高級住宅等)や、明らかに過大な水準の物件

逆に言えば、規程整備・賃貸料相当額の計算根拠の文書化・継続的な徴収実態の3点によって、これらの典型に該当しない設計は構築可能と考えられます。

否認する側にとっての論点 — 計算根拠と徴収実態

役員社宅の判定は、出張日当のように「金額の相当性」が問題になるのではなく、「賃貸料相当額の計算が正しく行われ、それ以上が本人から徴収されているか」という客観的事実の問題です。計算根拠(固定資産税評価証明書)と徴収実態(給与天引きまたは振込記録)の2点が揃っていれば、税務当局側が否認するハードルは相対的に高くなります。

判定のグレーが残るのは、業務遂行性(誰が住むか・どんな物件か)の部分です。役員本人が業務上の都合で居住する物件であること、物件のグレードが業務遂行に必要な範囲を逸脱していないことが、規程と機関決定の記録で説明可能であれば、客観的な防御層は構築できます。

但し、これは「絶対に否認されない」という保証ではありません。規程・機関決定・徴収実態の3点を揃えれば、計算根拠が客観的に説明可能な領域として整理されています。典型パターンを避ける設計と文書化を伴えば、過度な怯えで導入を見送る合理性は薄いと考えられます。


運用負荷の2種類(規程整備・継続的事務)

役員社宅の運用には、導入時に1回発生する固定負荷と、毎月継続的に発生する事務負荷の2種類があります。 否認リスクと並ぶコスト要素として、効果額と同じ秤に乗せて評価することが価値判定の前提となります。

規程整備の負荷(導入時に1回)

導入時の負荷は4種類です。社宅規程・借上規程の作成、機関決定の取得(会社法348条・362条に基づく取締役会または株主総会の決議・議事録作成)、物件の賃貸借契約の名義整備(会社名義での契約締結)、固定資産税課税標準額の取得(大家への協力依頼と評価証明書の取得)。1回限りの固定負荷ではあるものの、規程の整備品質はその後の運用と否認リスクに直結するため、ここで手を抜くと防御層の効きが大きく下がる点が要注意となります。

特に固定資産税課税標準額の取得は、入居前のタイミングで段取りを組むのが鉄則です。賃貸借契約書の特約条項に「固定資産税評価証明書の取得協力」を盛り込んでおけば、後工程の負荷を大きく下げられます。

継続的事務の負荷(毎月の徴収・契約更新・規程の見直し)

導入後は毎月の本人徴収事務(給与天引きまたは振込処理)と賃貸借契約の管理(更新時の家賃改定・敷金精算等)が継続発生します。これに加え、税務調査時の対応(規程・議事録・徴収記録・評価証明書の説明と提示)と、規程の見直し(役員報酬の改定・物件変更時の賃貸料相当額の再計算)が随時発生します。

3年に1度の固定資産税の評価替えに伴い、賃貸料相当額の再計算が必要になる点も継続的論点です。評価替えの結果、課税標準額が変動すれば、本人徴収額の見直しが連動して必要となります。

事務処理を社内のリソースで回すか、外部の専門サービスを利用するかで負荷の所在は変わります。いずれの場合も、節税効果を享受するためのコストとして継続的に発生する性質のものです。「効果が小さい割に運用負荷が大きい」という構造に陥らないためには、設計段階で物件選定・賃貸料相当額の計算・徴収手順をセットで最適化する必要があります。


まとめ

役員社宅の節税は4つの法的根拠を持つ制度であり、役員1名あたり年間100万円超の手取り増を生むケースが現実的にあります(効果額は受給者の課税所得帯・物件の固定資産税課税標準額・社保上限到達状況等の個別条件で大きく変動)。一方で「家賃50%」を画一的に当てはめる通常通りの整備では効果が数分の1に縮み、業界実態に即した設計(小規模住宅基準で賃貸料相当額を算定)には踏み込んだ知見が必要です。

役員社宅による節税は、所得税・社会保険・法人税・消費税の4つの法律に根拠を持つ制度です。効果額は受給者の役員報酬・物件の家賃水準・固定資産税課税標準額・地域・社保上限到達状況によって変動し、賃貸料相当額の計算は所得税基本通達36-40・36-41に明示されています。否認リスクと継続的な運用負荷というコスト要素も並走しますが、規程・機関決定・徴収実態の3点を整えた設計であれば防御可能性は高まります。自社で取り組むかどうかは、役員報酬の水準と物件の家賃水準から得られる効果額の見立てと、社内の事務処理体制・専門知識へのアクセスを照らし合わせて判断するのが現実的です。


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よくある質問(FAQ)

Q1. 役員社宅を導入すると、結局いくら手取りが増えますか?

A. 効果額は受給者の給与帯・物件の家賃水準・固定資産税課税標準額・地域の健保料率・社保上限到達状況の5要因で大きく変動します。年間数十万〜100万円超の幅で現れるケースが一般的とされ、自社条件での見立ては要因ごとの寄与度を整理したシミュレーションで行うのが現実的です。

Q2. 「家賃の50%を会社負担にする」という設計はそのまま使ってよいですか?

A. 顧問税理士が画一的に勧めることが多い設計ですが、所得税基本通達36-40で定める「小規模住宅」に該当する物件であれば、賃貸料相当額は固定資産税課税標準額ベースの計算式で算出され、月額3〜5万円相当に収まるケースが見られます(実際の金額は物件の固定資産税課税標準額により大きく変動するため、自社物件では市区町村の評価証明書で個別に算定する必要があります)。家賃50%ルールを機械的に当てはめると、節税効果を過小に見積もる結果になりがちです。

Q3. 賃貸料相当額の計算式に出てくる「小規模住宅」とはどんな物件ですか?

A. 所得税基本通達36-41において、法定耐用年数が30年以下の建物では床面積132㎡以下、30年超の建物では床面積99㎡以下のものを「小規模な住宅」と定義しています。木造の一般的な賃貸マンションは前者、鉄筋コンクリート造は後者の基準で判定する整理になります。中小企業の役員社宅で扱う物件の多くは小規模住宅に該当します。

Q4. 役員社宅が「給与」として税務調査で否認されるのは、どんなケースですか?

A. 規程不備・賃貸料相当額の計算ミス(小規模/一般の区分間違い、徴収不足)・対象者ルールの形骸化・業務遂行性の欠如の4類型に集中する傾向があります。規程整備・機関決定の記録・継続的な徴収実態の3点を整えれば防御可能性は高まると考えられます。

Q5. 賃貸ではなく持ち家の場合でも、社宅にすれば節税になりますか?

A. 会社が個人から物件を借り上げて社宅化する設計(リースバック型)は理論上可能ですが、関連当事者間取引としての価格妥当性・所有名義の整理・住宅ローン控除との二重適用不可など論点が複雑です。中小企業で取り組まれているのは、会社が大家から物件を借り上げて役員に貸し付ける「借上社宅」型が中心です。

Q6. 顧問税理士に相談すれば、最適な水準で設計してもらえますか?

A. 顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)と責任構造(否認時のリスク負担)から、役員社宅のような曖昧領域では保守的な水準(家賃50%一律設定)を勧める動機が働きやすい傾向があります。賃貸料相当額の計算式に踏み込んだ設計には、社内主導での合理性整理か、社宅設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。


出典・参考

  1. 所得税基本通達 36-40(役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算)/国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/08.htm (2026-05-03 確認)
  2. 所得税基本通達 36-41(小規模住宅等の範囲)/国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/08.htm (2026-05-03 確認)
  3. 所得税基本通達 36-15(経済的利益)/国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/02.htm (2026-05-03 確認)
  4. 国税庁タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm (2026-05-03 確認)
  5. 健康保険法 第3条5項(報酬の定義)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000070 (2026-05-03 確認)
  6. 厚生年金保険法 第3条1項3号(報酬の定義)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115 (2026-05-03 確認)
  7. 法人税法 第22条3項2号(損金の額に算入すべき金額)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034 (2026-05-03 確認)
  8. 消費税法 別表第一13号(住宅の貸付けに係る非課税)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363AC0000000108 (2026-05-03 確認)
  9. 会社法 第348条・第362条(業務執行の決定)/e-Gov 法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086 (2026-05-03 確認)

よくある質問

Q. 役員社宅を導入すると、結局いくら手取りが増えますか?
効果額は受給者の給与帯・物件の家賃水準・固定資産税課税標準額・地域の健保料率・社保上限到達状況の5要因で大きく変動します。年間数十万〜100万円超の幅で現れるケースが一般的とされ、自社条件での見立ては要因ごとの寄与度を整理したシミュレーションで行うのが現実的です。
Q. 「家賃の50%を会社負担にする」という設計はそのまま使ってよいですか?
顧問税理士が画一的に勧めることが多い設計ですが、所得税基本通達36-40で定める「小規模住宅」に該当する物件であれば、賃貸料相当額は固定資産税課税標準額ベースの計算式で算出され、月額3〜5万円相当に収まるケースが見られます(実際の金額は物件の固定資産税課税標準額により大きく変動するため、自社物件では市区町村の評価証明書で個別に算定する必要があります)。家賃50%ルールを機械的に当てはめると、節税効果を過小に見積もる結果になりがちです。
Q. 賃貸料相当額の計算式に出てくる「小規模住宅」とはどんな物件ですか?
所得税基本通達36-41において、法定耐用年数が30年以下の建物では床面積132㎡以下、30年超の建物では床面積99㎡以下のものを「小規模な住宅」と定義しています。木造の一般的な賃貸マンションは前者、鉄筋コンクリート造は後者の基準で判定する整理になります。中小企業の役員社宅で扱う物件の多くは小規模住宅に該当します。
Q. 役員社宅が「給与」として税務調査で否認されるのは、どんなケースですか?
規程不備・賃貸料相当額の計算ミス(小規模/一般の区分間違い、徴収不足)・対象者ルールの形骸化・業務遂行性の欠如の4類型に集中する傾向があります。規程整備・機関決定の記録・継続的な徴収実態の3点を整えれば防御可能性は高まると考えられます。
Q. 賃貸ではなく持ち家の場合でも、社宅にすれば節税になりますか?
会社が個人から物件を借り上げて社宅化する設計(リースバック型)は理論上可能ですが、関連当事者間取引としての価格妥当性・所有名義の整理・住宅ローン控除との二重適用不可など論点が複雑です。中小企業で取り組まれているのは、会社が大家から物件を借り上げて役員に貸し付ける「借上社宅」型が中心です。
Q. 顧問税理士に相談すれば、最適な水準で設計してもらえますか?
顧問税理士のビジネスモデル(月次顧問料・決算料中心)と責任構造(否認時のリスク負担)から、役員社宅のような曖昧領域では保守的な水準(家賃50%一律設定)を勧める動機が働きやすい傾向があります。賃貸料相当額の計算式に踏み込んだ設計には、社内主導での合理性整理か、社宅設計に踏み込んだ専門サービスの活用が現実的な選択肢になります。

出典・参考

  1. 所得税基本通達 36-40(役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算)2026-05-03 確認)
  2. 所得税基本通達 36-41(小規模住宅等の範囲)2026-05-03 確認)
  3. 所得税基本通達 36-15(経済的利益)2026-05-03 確認)
  4. 国税庁タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき2026-05-03 確認)
  5. 健康保険法 第3条5項(報酬の定義)2026-05-03 確認)
  6. 厚生年金保険法 第3条1項3号(報酬の定義)2026-05-03 確認)
  7. 法人税法 第22条3項2号(損金の額に算入すべき金額)2026-05-03 確認)
  8. 消費税法 第6条・別表第一13号(住宅の貸付けに係る非課税)2026-05-03 確認)
  9. 会社法 第348条・第362条(業務執行の決定)2026-05-03 確認)